弱者を直撃するAIDS カンボジア/1995年1月取材
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 九一年五月最初のエイズ感染者が報告されたカンボジアでは、昨年四月シハヌークビルの売春婦の三九.六%が、また今年一月中に国立輸血センターで献血した一般市民の六.七六%がエイズウイルスに感染ていた。九二年にはそれぞれ九.二%(複数地区の平均)、〇.五九%だったことから、その激増が危ぶまれる。


写真:指導員からコンドームを手渡される少女。まだ十代なかばの子供も多い=プノンペンのトゥール・コック通りで

 同省エイズ対策事務所は急増の原因を、[1] 国連統治以降の売春と性病の増加、[2] タイやベトナムなどから難民が帰還、 [3]注射を多用する医療慣習、[4] 輸血の安全性の不備、[5] 女性の低い社会的地位、を挙げる。検査前のアンケート調査から感染ルートの大半は異性間交流と分析している。
 「十人に三、四人はコンドームを着けてくれません。酔っていたり、銃を持っていると拒めません」と、ある娼婦は証言する。
 財政難から十分な感染防止対策がとれない保健省に対し、地元の援助団体(NGO)が健闘している。カンボジア女性開発協会は九二年から プノンペンの売春宿を訪ねてまわり、働く女性にエイズに対する正確な知識と予防法を教育している。四割前後の識字率を踏まえ講話や絵図を中心に、模型を使ったコンドーム装着演習も行っている。
 一方、同協会は観光産業で働けるようにと失業中の高卒女性に無料で英会話も教えている。また、別のNGO、ケマラは九三年から、伝統織物やミシン洋裁などの職業訓練校を開いているが、資金難から対象は近郊二村だけで「女性問題の解決法の一例を示す」のが精一杯のようだ。
 乱伐採がたたり、昨年の洪水で農産物が潰滅。所得が増えないまま、商品経済は浸透する一方だ。農村からの出稼ぎが増えるなか、インフラや法の未整備と治安の悪さから、雇用を創出する生産業は伸び悩んでいる。そうした社会背景に、主婦が売春に走り、娘が売られ、感染を恐れる客の少女買春が横行する。農民や女性、子供たち弱者が、社会的疾病と呼ばれるエイズにむしばまれている。
 保健省が見積もる「全国感染者、六千人以上」は、人口で換算すると日本なら七万人以上がエイズ感染していることになる。
(文・写真/阿佐部伸一)