阿佐部伸一 リポート集

東南アジアの人びと

台湾、香港、イギリス、日本新型コロナ禍2020年4月~

不気味なまでに静まり返る大阪 ~国内感染者1万人超え前日~

新型コロナの人的被害が極めて小さかった東南アジア。その理由をベトナム、カンボジア、タイの3か国で多角的に取材する予定なのですが、しばらく渡航できそうにありません。ということで、国内での取材を続けています。まずは非常事態宣言下の大阪を撮影しました。

「ステイホーム」と言われていますが、ビデオや写真はその時に現場へ行かねば撮れませんので、感染防止対策を取ったうえでの敢行でした。ジャーナリストには休業要請は出ておらず、逆に最も働かねばならない正念場です。

感染拡大防止に努め、移動や外出を控えておられた方々にご覧いただければと思います。

ベテラン教師の現場報告と憂い

covid19school

続けて新型コロナ関連で、もう一本アップします。あまりマスコミが取り上げていない局面、子どもたちの教育に焦点を当てようと同年輩の中学校教諭に「現場からの声」を発してもらいました。

5月いっぱいまで休校の延長を決めた自治体がある一方で、オンライン授業を実施できている公立校はわずか5%です(文科省調べ)。

終息は大半の人が免疫を持つ頃と言われ、この闘いの長期化は必至。ならば、次世代を担う子どもたちの教育が危惧されます。

今コロナに纏わる問題を取材・報道しなければ敵前逃亡するような罪悪感に苛まれ、眠れません。ジャーナリストとして、少しでもお役に立てればと思っています。

”コロナ・ストレス”との付き合い方

covid19stress

緊急事態宣言が延長されました。やむを得ない事情があっても、外出したり営業したりすると白い目で見られるような空気のなか、ストレスは高まる一方です。外出を自粛し、他人との接触を避け続ければ確かに疫病は防げます。しかし、引きこもっていると心の健康は蝕まれがち。鬱積するストレスが背後にありそうなDVや偏見差別の増加をはじめ、「コロナ離婚」や「コロナ鬱」といった造語まで出てきました。

そこで新型コロナウィルス関連のビデオリポート3本目は、心理学者で臨床心理士の旧友、池見陽教授に『ストレス緩和のコツ』を聞きました。もちろんマスク着用、アルコール消毒、2m以上離れて等、感染防止対策を取ったうえでの収録です。

ちなみに、池見教授はバイリンガル。同じテーマで英語版も制作しました。

薄氷に立つ高齢者施設 ~社会介護士の現状報告~

covid19nursary

「新型コロナウィルスによるヨーロッパ諸国の死者の半数近くは高齢者施設で」。4月23日、WHO=世界保健機関はこう発表した。

今回の新型ウィルスは発症しない人もいる一方で、持病がある人、特に高齢者は重症化しやすいと既に周知されている。それを受け、日本ではハイリスクな人たちという観点から、ひとたび介護施設で感染者が出ると大きく報じられてきた。だが、日本の高齢者施設での感染者・死者は、千、万という単位の欧米と比較すると桁違いに少なく、4月末現在で66人というデータがある。

欧米では病床やICUが不足すれば、迷わずトリアージが採用され、高齢者より壮年、青年が優先される。日本では、臓器移植や終末期医療の考え方もしかり、独特の生死観がある。また、高齢者施設では以前からインフルエンザやノロウィルスに対して感染防止対策を毎年実施し、介護員らが対策を習熟していたという実践的な経緯もあろう。

感染者が出た高齢者施設ばかりが報道され、感染者を出さずに持ちこたえている多くの施設の現状はほとんど見えてこない。新型コロナ関連のリポート第4回は『薄氷に立つ高齢者施設』と題し、デイサービスやショートステイ、特別養護老人ホームを運営する総合施設で中核的役割を担っている社会福祉士に最新の状況を聞いた。

開業医の嘆きと奮闘

covid19homedoctor

ところ狭しと注意喚起の貼り紙が

「ウチみたいな開業医は、感染者が一人でも出たら潰れてしまうからね」。こんな言葉を医師の口から聞いたのは2週間前、持病の治療で3年前から隔週通っている内科医院でのことだった。以来ずっと気になっていたので、5月12日の受診時に「先生、声を上げませんか?」と改めて取材を申し込んだ。カメラやマイクは断られたものの、メモなしには覚えておけないほどの事柄を15分を超えて話してくれた。もちろん医師は小生がジャーナリストであることを承知している。

「みんな(未知のウィルスを)恐がっていてのことで、(人への)偏見や差別ではないと思うけど…」と前置きし、同年配の医師は潰れてしまった実例を話し始めた。「知り合いの内科と小児科でスタッフに感染者が出て、自治体にも拠るけど、そこは保健所の消毒が入った。2週間の休院を余儀なくされ、再開したんだけれど、何年も通ってきていた患者さんをふくめて、誰一人患者さんが来なくなったと」

この医院では(1)玄関前の外で検温し、喉の痛みや咳などの症状がないかを確認、(2)患者をはじめ医師や看護師、事務員全員がマスク着用、(3)待合室には患者を2人まで、(4)窓とドアを開放して換気、(5)ドアノブやソファーを頻繁にアルコール消毒、(6)医師はマスクに加えて防護めがねを着け、原則2メートル離れての問診、としている。

「医師なら、どうすれば感染しないか分かっているし…」と予防策を説明した医師は、玄関ドアに「新型コロナウィルスの検査は、実施していません」と張り紙をしている。この日も午前中だけで37人を診察し、検体採取のためにさらに厳重な予防策を取る時間は捻出できないからだ。

全国の例に漏れず、この医院も患者の大半は高齢者。お年寄りには感染の疑いがあっても検査は勧めず、軽症なら自宅で療養してと言っている。「だって、80歳の人にビジネスホテルで缶詰めになってもらって、不味い飯を食べさせるというのは…」。何年も診ている患者だと、医師の指導を守って出歩かない人かどうかは判ると断言する。この開業医は新型コロナ渦でも全人的医療を実践しているようだ。

「日本での死者が少ないのは、医師のレベルが高いからですよ」。多くの開業医は独自の判断で重症化を防げそうな既存薬を、患者ひとり一人を診て処方していると明かす。「新型ウィルスに対する治験はまだですが」とことわりながら、肺炎やぜん息、脳梗塞などの治療薬を挙げた。「欧米での死者が桁違いに多いのは、一つには良い薬が保険適用されておらず高いし、用途が厳しく限定されているので日本のように柔軟な使い方ができないからでしょう」と推測している。

自分の処方箋を手に立ち寄った薬局では、薬剤師がこんなことを言っていた。「クラリス(肺炎を抑える抗生物質)ですか?普段より出てないですよ。皆さん健康管理に努められているからか、このごろ風邪ひきさんも少ないんです」

フライング営業のスナックで

covid19homedoctor

マスクの隙間にストローを差し入れてウィスキーを飲む?

「もうあんまり人生に未練ないのよ、私。いつ死んでもいいかなって」。「いやいや、まだ千万馬券あてないと」。幸子(仮名)ママと常連客の昨夜のやりとりだ。

東京都や大阪府などを除く39県で緊急事態宣言の解除が決まった5月14日の午後8時半、まだ解除されていない県で営業を再開していたスナックがあった。新型コロナのウィルス感染でハイリスクな三密の極みとされているのがスナック。カウンターに鈴なりになってマスクを外して酒を飲み、談笑にカラオケとなれば、互いに飛沫感染は避けられまい。まだ営業も外出も自粛要請が解除されていないので、フライング営業である。

50代後半の幸子さんは雇われママ。空家賃と使わないカラオケの配信料を払っていた経営者から「そろそろ店を開けようと思うけど、嫌でなかったら、どう?」と11日に連絡が入ったそうだ。昼間はスーパーのパートに行っているママは、子どもは既に独立して一人暮らし。「私、美味しいものとかお酒、大好きなんだけど、昼だけだと家賃と携帯代で消えちゃって…」。経営者は休業補償してくれず、持続化給付金の申請要件は満たせず、びくびくしながらも店を開けることを選んだ。『自粛警察』という新語をよく目にするようになった。個々の事情などは考慮せず、自粛していない人への攻撃が横行するなか、ママはフライングするか否かの判断を委ねられ、矢面に立たされている。

今の経営者で4代目というこの店は、私鉄の駅前で半世紀以上続いてきた。紛れもなくスナックの草分けと言える。なぜなら、スナックという業態は東京オリンピックが開かれた1964年頃に生まれたから。当時、風俗浄化という観点から酒類提供店の深夜営業への規制が厳しくなった。そこで、酒も出すが「スナック=軽食」の店という口実で規制を逃れるために現れたとのこと。だが、今回は人命が係っているだけに、そんな抜け道もなさそうだ。

それでも特定警戒県以外では入り口に消毒用アルコールを置きながら営業を続けていたバーもあった。「平熱より高い方と3人以上のグループはお断りします。入店前に必ず手指の消毒をお願いします。間隔を空けている椅子の移動は禁止です。互いに1m以内に近寄らないでください。当面、使い捨ての紙おしぼりを使います」。アルコールの瓶の上に貼られていた遵守事項である。

全国でコンビニより多く約10万店あるといわれるスナックは、新型コロナの影響で経営が立ち行かなくなり廃業が続出。加えて、緊急事態宣言の解除後も飲食店は総じて対面で座ることや人と人が近づくことを避けるよう求められるのが自明なので、客足が戻るかも不透明だ。日本の飲み文化が変わるかも知れない。

幸子ママも店を再開するにあたって、毎日検温し、マスクを着け、入り口にアルコールを置いている。知人の居酒屋では看板を蹴破られたと聞き、看板には灯を入れず、カラオケも低音量でマイクなし。競馬の話をしていた常連客は洋食店のシェフ。「今日の客はひとりっ!」と自嘲する。この日こっそり訪れた客は小生を入れて4人、三密には程遠い寂しさだった。

「また来てね」という幸子ママ。フライング営業しているのを知られると嫌がらせがあるかもと、見送りは断った。店の外は真っ暗。オープン当時からの型板ガラス越しにオレンジ色の光が仄かに漏れていた。

崖っぷちの起業家たち

covid19business

新型コロナ関連6本目は、休業や廃業を余儀なくされながらも、容赦ないテナント料に苦境に立つ起業家の声に耳を傾けました。一人目は外国人観光客や日本の若者に邦楽を広めようと大阪ミナミに5年前から店を構えている三味線奏者。二人目は高齢社会では健康寿命が大事と奈良の大型総合商業施設に3年前、フィットネスジムを開いた実業家。インバウンドと高齢化、どちらも時流を捉えたビジネスですが、新型コロナの感染拡大防止政策の下、崖っぷちに追いやられています。

ところで、過去2本は久々に書き原稿とスチル写真というスタイルで報じたところ、取材対象が開業医やスナックのママだったからか、映像リポートより多くの反響を頂きました。映像の方が取材や編集に手間暇がかかり、皆さんは受動的にご覧になれるのですが、分からないものです。このリポートはアポ取りに紆余曲折があって、お送りするのが遅くなっていましたが、半分は先月末にビデオカメラで取材済みだったため、迷うことなく映像リポートにしました。お時間が許す方はご覧になって頂ければ、幸いです。

ベトナムからマスク10万枚 日本の労働者へ

covid19vnmask

あいりん地区の日雇い労働者へとマスクを寄贈する西田社長(左)

4層の不織布で作られた立体型マスク10万枚が、ベトナムから日本へ届いた。

そのうち段ボール箱10個に入った1万枚は5月21日、大阪市西成区の日雇い労働者の街、あいりん地区へ寄贈された。マスクを贈ったのは建設業の株式会社瑞光。社長の西田長徳さん(43)は「労働者あっての建設現場ですが、マスクを買えない人も多いなか、感染者が出ないように」と動機を話す。

あいりん地区には現在1万6千人ほどの労働者が暮らし、約9割は建築土木に携わっている。生活保護受給者が大阪市で最も多く、路上生活者は千人を超し、高齢化率は60%に達しようとしている(国立社会保障人口問題研究所調べ)。結核患者も府下最多というこの地域に、新型コロナに感染すると重症化する可能性が高いとされる人たちが肩を寄せ合っている。

瑞光はあいりん地区のほか、同社が事業所を置く大阪市や京都市、滋賀県へもマスクを寄贈。合計10万枚という大量のマスクをベトナムから輸入できたのは、以前からベトナム人の技師や技能実習生を受け入れ、ベトナムとの太い繋がりがあったからだった。2007年から7年間技師として大阪で働き、現在は帰国して技能実習生の研修所幹部となっている二ャットさん(39)に、瑞光は3月上旬マスクの調達を相談した。彼が中心となり、品質の良いマスクを短期間に大量に製造し、日本へ輸出できる企業を選定。3月末にはベトナム商務省の品質鑑定証明書が、4月20日にサンプルが到着。28日には10万枚の契約を交わし、今月15日に関西空港へ無事届いたという流れだ。

マスクを個別包装しているビニール袋のラベルには、こう印刷されていた。「AAマスク。ベトナム人の健康を守るために。細菌と煙、埃を濾過して呼吸器を保護します。コロナウィルスの感染予防には、鼻と口の両方を覆うように着けてください。再使用する場合は、石鹸水で押し洗いして下さい。着用中や取り外した後、マスクの外側には触れないでください。製造HN衣料品」。ベトナム語だけで印字されていることからも、ベトナム国内向けの製品だ。しかし、マスクは新型コロナ以前よりは少し値上がりしているものの、市中どこでも簡単に入手できているとのこと。日本人が買い占めて迷惑をかけたということはなさそうだ。

ちなみに、ベトナムは2月初めから中国との旅客便を停止したり、感染者が出た村を閉鎖するなど早めに感染防止対策を徹底させてきた。その結果か、新型コロナによる死者はゼロとされている。ニャットさんは「どこの国の誰もが新型ウィルスで苦しんでいます。困難な時に助け合うのは当然です。日本も頑張ってください」とメッセージを送ってきた。

あいりん地区でマスクを受け取ったのは、西成労働福祉センター代表理事の内屋幸治さん(67)。同センターでは以前からインフルエンザなどの予防のために、日雇い労働者たちにマスクを毎日100枚配っていた。だが、新型コロナの流行が報じられるようになると、1日に400枚でも足りなくなり、大阪府に緊急事態宣言が発令された先月7日を待たずして、マスクの在庫は尽きていたという。

マスクが寄贈された日は、奇しくも関西の2府1県の緊急事態宣言が解除されたその日だった。内屋さんは「解除になって、これから仕事も増え、またマスクが大量に必要になるところでした」と礼を言い、瑞光へ感謝状を手渡した。

緊急事態宣言を受けてゼネコンらが公共工事などをストップしたこともあり、同センターによると4月の求人数は前年同月比でマイナス30・4%だった。工事現場は大型連休明けに順次再開されているが、内屋さんは「マスクを持っていないからと、仕事にありつけなかった人も実際にいたので、本当に助かります」と感謝の弁を繰り返した。自前でマスクを用意することを雇用条件にしている業者があるのだ。

ガーゼ製で1枚200円程度といわれるアベノマスクにいたっては未だに受け取っていない世帯も多く、あいりん地区などに暮らし、自分の郵便受けを持たない人たちには未来永劫届かない。一方、ベトナム人たちが1枚あたり27円ほどで届けてくれた高品質マスクは、それを本当に必要としている人たちの手に渡っている。

フェースガードにマスクの舞妓 ~コロナ感染者再急増 観光奈良は~

covid19business

日本での新型コロナ禍は緩やかながら、このまま収束に向かうだろうから、次の取材先はライフワークの東南アジアに戻そうと思っていた矢先のことでした。国内の感染者が7月16日、3か月ぶりに600人を超えたのです。政府は感染者の再急増をうけ、7月の4連休から実施する観光業者支援事業『GO TOトラベル』で東京発着を除外と決定。

タイやベトナムなどの入国条件が未だ厳しいこともあり、大打撃を受けている観光業者を取材すべく、急きょ日本を代表する観光地・奈良へ行ってきました。興福寺の中金堂が再建され、大修理が行われていた薬師寺東塔の覆いも取れたのですが、外国人観光客らでごった返した社寺仏閣や商店街は閑古鳥が鳴いています。

夜と早朝の古都の魅力を満喫し、より多くのカネを落とす泊りがけの観光客を増やそうと、新しいホテルや夜の見どころを増やしてきた奈良。『GO TOトラベル』などを機に、観光客が戻り始めることを多くの人が期待していました。しかし、ここにきて客と自分の健康管理よりも、感染防止や景気浮揚の対策を発動する政府に翻弄される観光に携わる人たち。

今回のビデオリポートでは、緊急事態宣言下の自粛から営業を再開したばかりのお茶屋とホテル、それに、かき氷店を訪ね、それぞれの本音に耳を傾けています。本業だけでなく、数々の町おこしイベントを企画・運営し、奈良経済の振興に尽力してきた人たちだけに、コロナ禍の真っ只中でも前向きな展望を語ります。フェースガードにマスク姿で舞を披露する舞妓さんですが、白塗りの下は現代の娘さん。「オンラインお座敷」といった提言もありました。

逞しく生きる ――― 感染者数4位の福岡で

政府が緊急事態宣言を5月25日に解除すると、確認感染者数は再び増加に転じ、福岡県が第2波のピークを迎えたのは7月31日のことだった。福岡県は独自の『福岡コロナ警報』を8月5日に発動し、8月8日から21日の間「接待を伴う飲食店等」に(1)滞在は2時間以内と客に促すこと、(2)ガイドラインを遵守していない店に休業協力、を要請した。しかし「規制的な措置を長期間継続することは難しい」とし、同警報は延長しなかった。福岡県の人口あたりの感染者数は8月以降、東京、沖縄、大阪についで4番目に多いが、減少傾向にはある。9月初頭そんな福岡を訪ね、第3、第4の波も来ると予想されるなか、新しい生活様式を模索しながら逞しく生きる人たちに会ってきた。

covid19nakasu

“夜の街”一筋28年

まずは「接待を伴う飲食店等」で働く人たち。西日本最大の歓楽街・中洲の名物、那賀川に映るネオン。それだけを遠目に見ても、コロナ以前との違いほとんど判らない(写真)。9月4日午後9時、中洲大通り。金曜日にも関わらず、ホステスやボーイ、バーテンらが自分の店の前に、手持ち無沙汰に立ち尽くしている。挨拶しようにも人が通らない。彼女たちの視線を受けながら自営業風の中年男性が和服姿のママと同伴出勤して行く。店がつぶれないよう常連客が応援しているのだろう。

ここ中洲から車で1時間ほどの郡部の高校を卒業した古賀ゆかり(仮名)さんは、28年間ホステス一筋。ミニスカートから伸びる美脚が眩しいが、ゆかりさんも今年で47歳。勤めていた熟女キャバが他店に吸収される形で閉店し、彼女がいた店は明るい照明の下、白いソファが並び、VIPルームもある40人は入れるキャバクラだった。この夜ホステス6人と店長以下3人のボーイがいたが、先客はおらず貸し切り状態。ゆかりさんは『福岡コロナ警報』が解除された後、週3日ほどのペースで出勤しているという。鼻と口だけを覆う透明マスクを着け、対面ではなく横に座る。

covid19hostess

「一組しか客がおらんで、基本時給しかもらえん夜もあって、このごろテレアポに行きよるとよ」。貯金と一律10万円の給付金も底を突き、ゆかりさんはダブルワークを始めていた。コロナ前は夜一本で月50万円以上稼ぎ、美容院やエステへ頻繁に通い、若いホステスに気前よくご馳走し、毎晩タクシー帰宅していた。「こないだえらい酢の物が食べとなって作ろうと思たばってん、キュウリが95円もするとよ。1本じゃ足りんめが…」。外食での感染が怖かったのと、出費を抑えるために、自炊を始めたという。「これコロナ太りと違うとよ。私ね、食材とか料理とか捨てきれんと、全部食べてしまうけん、5キロも太ったと」

しばらく顔を見ない客にSNSでメッセージを送ると、このごろは魚釣りやゴルフなどで遊んでいると。大手企業に勤める客は会社から禁足令が出ていて、社用族はまだ戻って来ていない。領収書を切れないからということもあるが、万一感染した場合、飲みに行ったことが会社にバレるのを恐れているからだという。ぽつりぽつりと来てくれる客は、自営業か勤務先から止められていない人。「ばってん、もしお店で感染したらどげんすんね、怖かろうが。うちから『来て』とはよう言わんよ」

コロナを機に夜から足を洗う考えも一瞬よぎったと言うが、「もうちょっと待ちよったら、昔のごつお客さん来るっちゃなかろうか?私、そげな気がするとよ」と眼を輝かせながら宣う。さすが熟達のホステス、場を明るくし、客を元気づけようとする。

“濃厚接触”の仕事に復帰

一方、6か月ぶりに派遣型風俗・デリバリーヘルスに戻ったという女性に出会った。“支店都市”福岡は単身赴任者が多く、デリヘル発祥の地とも言われている。老舗の一軒に電話すると、繋がるまでに時間がかかり、背後で別の注文を受けている声も。まぎれもなく濃厚接触となる業種だが、忙しそうだ。飲み屋のように自分から店に行かずに、こっそり遊べることから、自粛警察の非難や同調圧力が強まるなか、利用者が逆に増えている可能性は否定できない。万一クラスターが発生しても漏れなく「感染経路不明」となろう。

covid19delihel

送迎車が足りないからと、玄関の呼び鈴が鳴ったのは約1時間後。「こんにちは。初めまして、今泉千佳と申します。きょうはご指名ありがとうございます」。丁寧な挨拶をして部屋に入ってきた千佳さんは、花柄のワンピースに白いボレロを羽織っていて、さながら同窓会に向かう主婦のような出で立ちだった(写真)。取材の趣旨を説明すると、源氏名で顔出しナシという条件で、本当のことを話し始めた。

千佳さん、長崎県は壱岐島出身の39歳。内縁の夫と福岡市南区で暮らしていて、まだ子どもはいないが、彼の収入だけでは苦しいとのこと。他の仕事に就けない期間は、この仕事をするというパターンが6年続いているという。

つい数日前まで大型家電店のコールセンターで働いていたが、エアコン販売の繁忙期だけの派遣だったため8月末日で契約が切れた。「派遣会社にも次の仕事を頼んでいるんですけど、見つからないんで…。きょう本当に半年ぶりでドキドキ、緊張してます」

九州・沖縄でコールセンターの平均時給は、アルバイトで933円、派遣社員で1100円(20年8月の求人情報から算出)。一方、風俗店での報酬は1時間で9000円、2時間で18000円。1日に2回、3回と指名されれば、単純に上記金額の2倍、3倍となる。好きな曜日・時間帯に働け、待機中の時給は出ないが自宅での待機も可能で、送迎があるので交通費はかからない。

covid19mask

半年前の3月初頭、千佳さんが在籍する風俗店は営業を続けていたが、客が激減した。待機しているだけでは報酬ゼロ。加えて、避けられない濃厚接触が怖くなった彼女は、コールセンターでの仕事をやっとのことで見つけ、コロナ渦中の風俗店を脱出したという。ちなみに、コールセンターでは指先から採血する抗体検査が1度あり、陰性だったとのこと。「正直、ホッとしました」。自分のフロアではクラスター感染は起こらなかったそうだ。

ホステスのゆかりさんはキャリアが長く、ママの経験もあるが、雇用形態はずっとアルバイト。仕事がない期間は風俗店で働く千佳さんもフリーランスの自覚はなかった。社員でなければ休業手当を出さない店舗や企業は、コロナまん延以前から少なくなかった。個人事業主として確定申告していたなら、衣装代や美容代、交通費などは経費に上げられ、今回の持続化給付金を受けられていたことだろう。

千佳さんが風俗店に復帰した9月初頭、福岡県の確認感染者数は1日あたり約40人、陽性率は2.6%前後を推移していた。「お客さんが感染してるかどうか、そんなこと判らないし…。そりゃ、怖くないと言えばウソですけど、私は持病もないし、元気なんで」。マスクを着けて現れた彼女だったが、到着直後の手洗いうがいはせず、話す時はマスクを外していた。ゆかりさんも千佳さんも長引くコロナ禍を生きていくため、自分なりのリスク計算のもと開き直っているように見えた。

48歳のウバ活 ―― シングルファーザーの奮闘と提言

ubereats_singlepapa

二人の息子は独立、一番下の娘さんも高3になったシングルファーザー、宮原礼智(あやとも)さん、48歳。育児と家事と仕事を16年間両立させながら『ひとり親支援ネットワークNPOふしぼしねっと』の代表理事を務めてきた。「笑っている家族を増やし、シングルファーザーやシングルマザーがこれ以上増えない世の中にする」というミッションを自らに課し、パパの子育てスタイルの普及・啓蒙に走り回っている。

だが、もう少しで父親業も卒業というところで、コロナ禍が襲来。近年は電子部品工場に勤めていたが、自宅待機となり給料カットにも遭っている。それでも、宮原さんは新型コロナウィルス発生の遥か前、離婚を機にフルタイムの会社員を辞めて、育児家事と両立できるネット通販を起業するなどして生き抜いてきた。

久しぶりに会った彼は50歳を前にして、いまが“旬”だと『ウバ活』を始めていた。紛れもなく努力家の彼だが、一方でしなやかに飄々と。コロナで収入が激減したり、なくなったりする職業と、すぐには影響がない職業がある。それゆえ稼ぎ手が一人のひとり親家庭は、より大きなリスクに晒されている。3人の子を育て上げたシングルファーザー、宮原さんにコロナ禍の切り抜け方を聞いてみた。

コロナ渦中のフリースクールで

COVID19freeschool

福岡市で9月2日、フリースクールを訪ねた。この日は小1から中2までの男子12人、女子5人が、6人の元教師や学生らと一緒にそれぞれの進度で学習していた。取材者の小生を含めて全員がマスクを着用し、感染が怖くてという理由をふくめ、教室に来られない子どもとはネット会議システムを利用して、声をかけ、授業を行っていた。

授業がわからない、いじめられる、先生が苦手、学校が嫌い…。様々な理由から学校に行かなくなったり、引きこもったりする子どもたちが年々増えている。不登校児童生徒の文科省の定義は「年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」。2018年度にはその数、小中高合わせて22万7251人に上り、中学生では30人に一人が不登校という計算になっていた(文科省調べ)。

そこへ今年、新型コロナウィルス対策本部は3月2日からの全国の小中高などに一斉休校を要請。感染者ゼロだった岩手県をふくめ、殆どの学校がGW明けまで休校した。子どもの感染例は少なく、学校でのクラスターは海外でも皆無に近い。給食や学童保育もなくなり仕事と育児の両立で困った親たちはいたが、感染拡大防止対策として効果のある施策だったのか。三密をさけるとして分散登校や行事の中止は続いており、教育の機会を奪うことや家庭での虐待増が危惧されている。

新型コロナウィルスの出現で、これまで毎日登校していた子どもたちが「不登校」を経験することになった。一方、フリースクールではコロナ以前からオンライン授業を活用し、自宅ではない場所での家族以外との繋がり、社会との接点を維持していた。コロナ渦中、不登校の子どもや親たちの声にも耳を傾けた。

「不安があって当たり前 ~コロナ不安に森田療法~」 ――― 黒川内科院長 黒川心理研究所所長 黒川順夫さん

「怖いですよ、そりゃ。まず自分が罹ったら死んでしまうので、歳を取りましたからね」。コロナ渦中の休診日に訪ねた医師、黒川順夫さん(78)は率直に話し始めた。加えて、院長の自分を含めて医療スタッフや事務員に一人でも感染者が出れば、患者が激減して経営が立ち行かなくなるという不安もあるという。実際、来院した人は受付前に検温し、37.5度以上ある人には、先ずPCR検査に行ってもらっている。黒川内科は開業当時から心身症を診る心療内科に力を入れていて、臨床心理士も5人以上が常勤。「いつになったら収束するのか分からない状況で、ほとんどの人が健康と経済の両面で不安になるのは当たり前です」。副作用がないワクチンか、インフルエンザのタミフルのような薬が行き渡るまで、この不安は長引くと黒川さんはみている。

covid19DRkurokawa

「感染は怖い」と率直に話す黒川医師=診察室で

「感染が怖くて一歩も外出できないんです」。「三密の電車に乗るのが怖くて、診てもらいに行けません」。こんな訴えが自分の受け持つ心身症患者のなかからもあると明かす。症状が悪化し、精神療法を再開していく過程では薬が必要になることも。緊急事態宣言の発出期間は定期通院している患者には処方箋を郵送やファックスできたが、解除後は来院せず電話だけで処方するわけにはいかない。そうした患者は学校や仕事以前に日常生活にも事欠くことになり、独居ともなれば命にかかわってくる。一方で、登校拒否したり、会社へ行けなくなっていた患者たちは、リモートで授業をうけたり、勤務することが認められるようになって「楽になった」という人もいるそうだ。恐れおののく人と、むしろ精神的に楽になっている人と両極端に分かれている。

そういう黒川さん、実は高校生の時に神経症の一つ「赤面恐怖症」を発症し、不登校になったことがある。その病を『森田療法』で克服して医学部へ進学、後に神経症を完治させた当事者でもあることから、森田療法を治療現場で実践し、現代のライフスタイルにも適合させるべく研究してきた。そして今、新型コロナの渦中で不安から心身に不調を来している人たちにも、ぜひ森田療法を知ってもらいたいと思っている。

covid19BOOKSkurokawa

黒川さんの著書

東京慈恵会医科大学森田療法センターによると、森田療法とは同大教授を務めた精神科医、森田正馬(1874~1938年)によって創始された神経症に対する精神療法。強迫性障害をはじめ社交不安障害、パニック障害、…、近年では慢性化したうつ病やアトピー性皮膚炎、慢性疼痛などの心身症、がん患者のメンタルヘルスなどにも広く応用されている。不安や死への恐怖と生の欲望は表裏一体で、誰にも必ず訪れる死への恐怖を完全に除去することは不可能で、またその必要もない。そうした観点から、不安や症状を排除しようとせず、そのままにしておける心構えを養い、よりよく生きたいという欲望を建設的な行動として発揮させる療法だ。

奇しくも新型コロナ発生の2年前、黒川さんは『不安こそ宝物』という本を出していた。その中で森田療法を発展させた「ABCD森田」という自宅でもできる療法を紹介している。感染に対する不安から、また、周囲の耳目が気になって、何にも手がつかない、引きこもりがちになっているという人にも、この療法は有効だという。

まず、日常生活での作業を4つ、ABCDに分ける。Aは仕事や勉強など、するべき大切なこと。Bは音楽鑑賞や読書、ペットと遊ぶ、おやつにスイーツといった楽しいこと。Cは炊事、洗濯、掃除など日常すべきこと。Dは食事やトイレ、入浴など生きるうえで必要な行為。順序は自由に一項目30分くらいで行い、気が進まなければ5分、10分で止め、逆に興に乗っても1時間くらいで他の項目に移ることが秘訣。「こんな風に短時間であれこれ手をつけていくと、まず不安が悪循環する暇な時間が少なくなりますよね。とらわれが強い人は次の作業にすぐスイッチすることで、一つのことに執着せずに済み、しかも疲れないんです」

covid19CLINICkurokawa

大阪府豊中市にある黒川内科・黒川心理研究所

「一大事に緊張しないと命取りに」。「不安感が少ないときは赤信号」。これは黒川さん自身の体験からの持論だ。「日本は欧米より神経質な人の割合が高いことが、感染を抑えていると思っています」。アメリカやブラジルでのように、新型ウィルスを怖がらずにマスクもせず堂々としているより、不安でびくびくしている方が良いと説く。若い人は免疫機能がしっかりしていて感染しても無症状だったり、軽症だったりすることから、知らないうちに高齢者や持病のある人にうつす可能性がある。よって、公衆衛生や集団防疫の観点から「若い人たちも神経質に怖がった方がよいですよ」と促す。

そうすると、当然のごとく不安になるのだが、森田療法を長年研究してきた黒川さんはこう勧めた。「新型コロナに不安を感じていても、その不安を無理に取り除こうとせずに、不安を持ちながら、感染防止対策をとったうえで、必要なことを実行していくことが、この時代を生き抜くカギです」

(文・写真/阿佐部伸一)

トップに戻る