台湾、香港、イギリス、日本新型コロナ禍2020年4月~
不気味なまでに静まり返る大阪 ~国内感染者1万人超え前日~
新型コロナの人的被害が極めて小さかった東南アジア。その理由をベトナム、カンボジア、タイの3か国で多角的に取材する予定なのですが、しばらく渡航できそうにありません。ということで、国内での取材を続けています。まずは非常事態宣言下の大阪を撮影しました。
「ステイホーム」と言われていますが、ビデオや写真はその時に現場へ行かねば撮れませんので、感染防止対策を取ったうえでの敢行でした。ジャーナリストには休業要請は出ておらず、逆に最も働かねばならない正念場です。
感染拡大防止に努め、移動や外出を控えておられた方々にご覧いただければと思います。
ベテラン教師の現場報告と憂い
続けて新型コロナ関連で、もう一本アップします。あまりマスコミが取り上げていない局面、子どもたちの教育に焦点を当てようと同年輩の中学校教諭に「現場からの声」を発してもらいました。
5月いっぱいまで休校の延長を決めた自治体がある一方で、オンライン授業を実施できている公立校はわずか5%です(文科省調べ)。
終息は大半の人が免疫を持つ頃と言われ、この闘いの長期化は必至。ならば、次世代を担う子どもたちの教育が危惧されます。
今コロナに纏わる問題を取材・報道しなければ敵前逃亡するような罪悪感に苛まれ、眠れません。ジャーナリストとして、少しでもお役に立てればと思っています。
”コロナ・ストレス”との付き合い方
緊急事態宣言が延長されました。やむを得ない事情があっても、外出したり営業したりすると白い目で見られるような空気のなか、ストレスは高まる一方です。外出を自粛し、他人との接触を避け続ければ確かに疫病は防げます。しかし、引きこもっていると心の健康は蝕まれがち。鬱積するストレスが背後にありそうなDVや偏見差別の増加をはじめ、「コロナ離婚」や「コロナ鬱」といった造語まで出てきました。
そこで新型コロナウィルス関連のビデオリポート3本目は、心理学者で臨床心理士の旧友、池見陽教授に『ストレス緩和のコツ』を聞きました。もちろんマスク着用、アルコール消毒、2m以上離れて等、感染防止対策を取ったうえでの収録です。
ちなみに、池見教授はバイリンガル。同じテーマで英語版も制作しました。
薄氷に立つ高齢者施設 ~社会介護士の現状報告~
「新型コロナウィルスによるヨーロッパ諸国の死者の半数近くは高齢者施設で」。4月23日、WHO=世界保健機関はこう発表した。
今回の新型ウィルスは発症しない人もいる一方で、持病がある人、特に高齢者は重症化しやすいと既に周知されている。それを受け、日本ではハイリスクな人たちという観点から、ひとたび介護施設で感染者が出ると大きく報じられてきた。だが、日本の高齢者施設での感染者・死者は、千、万という単位の欧米と比較すると桁違いに少なく、4月末現在で66人というデータがある。
欧米では病床やICUが不足すれば、迷わずトリアージが採用され、高齢者より壮年、青年が優先される。日本では、臓器移植や終末期医療の考え方もしかり、独特の生死観がある。また、高齢者施設では以前からインフルエンザやノロウィルスに対して感染防止対策を毎年実施し、介護員らが対策を習熟していたという実践的な経緯もあろう。
感染者が出た高齢者施設ばかりが報道され、感染者を出さずに持ちこたえている多くの施設の現状はほとんど見えてこない。新型コロナ関連のリポート第4回は『薄氷に立つ高齢者施設』と題し、デイサービスやショートステイ、特別養護老人ホームを運営する総合施設で中核的役割を担っている社会福祉士に最新の状況を聞いた。
開業医の嘆きと奮闘
「ウチみたいな開業医は、感染者が一人でも出たら潰れてしまうからね」。こんな言葉を医師の口から聞いたのは2週間前、持病の治療で3年前から隔週通っている内科医院でのことだった。以来ずっと気になっていたので、5月12日の受診時に「先生、声を上げませんか?」と改めて取材を申し込んだ。カメラやマイクは断られたものの、メモなしには覚えておけないほどの事柄を15分を超えて話してくれた。もちろん医師は小生がジャーナリストであることを承知している。
「みんな(未知のウィルスを)恐がっていてのことで、(人への)偏見や差別ではないと思うけど…」と前置きし、同年配の医師は潰れてしまった実例を話し始めた。「知り合いの内科と小児科でスタッフに感染者が出て、自治体にも拠るけど、そこは保健所の消毒が入った。2週間の休院を余儀なくされ、再開したんだけれど、何年も通ってきていた患者さんをふくめて、誰一人患者さんが来なくなったと」
この医院では(1)玄関前の外で検温し、喉の痛みや咳などの症状がないかを確認、(2)患者をはじめ医師や看護師、事務員全員がマスク着用、(3)待合室には患者を2人まで、(4)窓とドアを開放して換気、(5)ドアノブやソファーを頻繁にアルコール消毒、(6)医師はマスクに加えて防護めがねを着け、原則2メートル離れての問診、としている。
「医師なら、どうすれば感染しないか分かっているし…」と予防策を説明した医師は、玄関ドアに「新型コロナウィルスの検査は、実施していません」と張り紙をしている。この日も午前中だけで37人を診察し、検体採取のためにさらに厳重な予防策を取る時間は捻出できないからだ。
全国の例に漏れず、この医院も患者の大半は高齢者。お年寄りには感染の疑いがあっても検査は勧めず、軽症なら自宅で療養してと言っている。「だって、80歳の人にビジネスホテルで缶詰めになってもらって、不味い飯を食べさせるというのは…」。何年も診ている患者だと、医師の指導を守って出歩かない人かどうかは判ると断言する。この開業医は新型コロナ渦でも全人的医療を実践しているようだ。
「日本での死者が少ないのは、医師のレベルが高いからですよ」。多くの開業医は独自の判断で重症化を防げそうな既存薬を、患者ひとり一人を診て処方していると明かす。「新型ウィルスに対する治験はまだですが」とことわりながら、肺炎やぜん息、脳梗塞などの治療薬を挙げた。「欧米での死者が桁違いに多いのは、一つには良い薬が保険適用されておらず高いし、用途が厳しく限定されているので日本のように柔軟な使い方ができないからでしょう」と推測している。
自分の処方箋を手に立ち寄った薬局では、薬剤師がこんなことを言っていた。「クラリス(肺炎を抑える抗生物質)ですか?普段より出てないですよ。皆さん健康管理に努められているからか、このごろ風邪ひきさんも少ないんです」
フライング営業のスナックで
「もうあんまり人生に未練ないのよ、私。いつ死んでもいいかなって」。「いやいや、まだ千万馬券あてないと」。幸子(仮名)ママと常連客の昨夜のやりとりだ。
東京都や大阪府などを除く39県で緊急事態宣言の解除が決まった5月14日の午後8時半、まだ解除されていない県で営業を再開していたスナックがあった。新型コロナのウィルス感染でハイリスクな三密の極みとされているのがスナック。カウンターに鈴なりになってマスクを外して酒を飲み、談笑にカラオケとなれば、互いに飛沫感染は避けられまい。まだ営業も外出も自粛要請が解除されていないので、フライング営業である。
50代後半の幸子さんは雇われママ。空家賃と使わないカラオケの配信料を払っていた経営者から「そろそろ店を開けようと思うけど、嫌でなかったら、どう?」と11日に連絡が入ったそうだ。昼間はスーパーのパートに行っているママは、子どもは既に独立して一人暮らし。「私、美味しいものとかお酒、大好きなんだけど、昼だけだと家賃と携帯代で消えちゃって…」。経営者は休業補償してくれず、持続化給付金の申請要件は満たせず、びくびくしながらも店を開けることを選んだ。『自粛警察』という新語をよく目にするようになった。個々の事情などは考慮せず、自粛していない人への攻撃が横行するなか、ママはフライングするか否かの判断を委ねられ、矢面に立たされている。
今の経営者で4代目というこの店は、私鉄の駅前で半世紀以上続いてきた。紛れもなくスナックの草分けと言える。なぜなら、スナックという業態は東京オリンピックが開かれた1964年頃に生まれたから。当時、風俗浄化という観点から酒類提供店の深夜営業への規制が厳しくなった。そこで、酒も出すが「スナック=軽食」の店という口実で規制を逃れるために現れたとのこと。だが、今回は人命が係っているだけに、そんな抜け道もなさそうだ。
それでも特定警戒県以外では入り口に消毒用アルコールを置きながら営業を続けていたバーもあった。「平熱より高い方と3人以上のグループはお断りします。入店前に必ず手指の消毒をお願いします。間隔を空けている椅子の移動は禁止です。互いに1m以内に近寄らないでください。当面、使い捨ての紙おしぼりを使います」。アルコールの瓶の上に貼られていた遵守事項である。
全国でコンビニより多く約10万店あるといわれるスナックは、新型コロナの影響で経営が立ち行かなくなり廃業が続出。加えて、緊急事態宣言の解除後も飲食店は総じて対面で座ることや人と人が近づくことを避けるよう求められるのが自明なので、客足が戻るかも不透明だ。日本の飲み文化が変わるかも知れない。
幸子ママも店を再開するにあたって、毎日検温し、マスクを着け、入り口にアルコールを置いている。知人の居酒屋では看板を蹴破られたと聞き、看板には灯を入れず、カラオケも低音量でマイクなし。競馬の話をしていた常連客は洋食店のシェフ。「今日の客はひとりっ!」と自嘲する。この日こっそり訪れた客は小生を入れて4人、三密には程遠い寂しさだった。
「また来てね」という幸子ママ。フライング営業しているのを知られると嫌がらせがあるかもと、見送りは断った。店の外は真っ暗。オープン当時からの型板ガラス越しにオレンジ色の光が仄かに漏れていた。
崖っぷちの起業家たち
新型コロナ関連6本目は、休業や廃業を余儀なくされながらも、容赦ないテナント料に苦境に立つ起業家の声に耳を傾けました。一人目は外国人観光客や日本の若者に邦楽を広めようと大阪ミナミに5年前から店を構えている三味線奏者。二人目は高齢社会では健康寿命が大事と奈良の大型総合商業施設に3年前、フィットネスジムを開いた実業家。インバウンドと高齢化、どちらも時流を捉えたビジネスですが、新型コロナの感染拡大防止政策の下、崖っぷちに追いやられています。
ところで、過去2本は久々に書き原稿とスチル写真というスタイルで報じたところ、取材対象が開業医やスナックのママだったからか、映像リポートより多くの反響を頂きました。映像の方が取材や編集に手間暇がかかり、皆さんは受動的にご覧になれるのですが、分からないものです。このリポートはアポ取りに紆余曲折があって、お送りするのが遅くなっていましたが、半分は先月末にビデオカメラで取材済みだったため、迷うことなく映像リポートにしました。お時間が許す方はご覧になって頂ければ、幸いです。
ベトナムからマスク10万枚 日本の労働者へ
4層の不織布で作られた立体型マスク10万枚が、ベトナムから日本へ届いた。
そのうち段ボール箱10個に入った1万枚は5月21日、大阪市西成区の日雇い労働者の街、あいりん地区へ寄贈された。マスクを贈ったのは建設業の株式会社瑞光。社長の西田長徳さん(43)は「労働者あっての建設現場ですが、マスクを買えない人も多いなか、感染者が出ないように」と動機を話す。
あいりん地区には現在1万6千人ほどの労働者が暮らし、約9割は建築土木に携わっている。生活保護受給者が大阪市で最も多く、路上生活者は千人を超し、高齢化率は60%に達しようとしている(国立社会保障人口問題研究所調べ)。結核患者も府下最多というこの地域に、新型コロナに感染すると重症化する可能性が高いとされる人たちが肩を寄せ合っている。
瑞光はあいりん地区のほか、同社が事業所を置く大阪市や京都市、滋賀県へもマスクを寄贈。合計10万枚という大量のマスクをベトナムから輸入できたのは、以前からベトナム人の技師や技能実習生を受け入れ、ベトナムとの太い繋がりがあったからだった。2007年から7年間技師として大阪で働き、現在は帰国して技能実習生の研修所幹部となっている二ャットさん(39)に、瑞光は3月上旬マスクの調達を相談した。彼が中心となり、品質の良いマスクを短期間に大量に製造し、日本へ輸出できる企業を選定。3月末にはベトナム商務省の品質鑑定証明書が、4月20日にサンプルが到着。28日には10万枚の契約を交わし、今月15日に関西空港へ無事届いたという流れだ。
マスクを個別包装しているビニール袋のラベルには、こう印刷されていた。「AAマスク。ベトナム人の健康を守るために。細菌と煙、埃を濾過して呼吸器を保護します。コロナウィルスの感染予防には、鼻と口の両方を覆うように着けてください。再使用する場合は、石鹸水で押し洗いして下さい。着用中や取り外した後、マスクの外側には触れないでください。製造HN衣料品」。ベトナム語だけで印字されていることからも、ベトナム国内向けの製品だ。しかし、マスクは新型コロナ以前よりは少し値上がりしているものの、市中どこでも簡単に入手できているとのこと。日本人が買い占めて迷惑をかけたということはなさそうだ。
ちなみに、ベトナムは2月初めから中国との旅客便を停止したり、感染者が出た村を閉鎖するなど早めに感染防止対策を徹底させてきた。その結果か、新型コロナによる死者はゼロとされている。ニャットさんは「どこの国の誰もが新型ウィルスで苦しんでいます。困難な時に助け合うのは当然です。日本も頑張ってください」とメッセージを送ってきた。
あいりん地区でマスクを受け取ったのは、西成労働福祉センター代表理事の内屋幸治さん(67)。同センターでは以前からインフルエンザなどの予防のために、日雇い労働者たちにマスクを毎日100枚配っていた。だが、新型コロナの流行が報じられるようになると、1日に400枚でも足りなくなり、大阪府に緊急事態宣言が発令された先月7日を待たずして、マスクの在庫は尽きていたという。
マスクが寄贈された日は、奇しくも関西の2府1県の緊急事態宣言が解除されたその日だった。内屋さんは「解除になって、これから仕事も増え、またマスクが大量に必要になるところでした」と礼を言い、瑞光へ感謝状を手渡した。
緊急事態宣言を受けてゼネコンらが公共工事などをストップしたこともあり、同センターによると4月の求人数は前年同月比でマイナス30・4%だった。工事現場は大型連休明けに順次再開されているが、内屋さんは「マスクを持っていないからと、仕事にありつけなかった人も実際にいたので、本当に助かります」と感謝の弁を繰り返した。自前でマスクを用意することを雇用条件にしている業者があるのだ。
ガーゼ製で1枚200円程度といわれるアベノマスクにいたっては未だに受け取っていない世帯も多く、あいりん地区などに暮らし、自分の郵便受けを持たない人たちには未来永劫届かない。一方、ベトナム人たちが1枚あたり27円ほどで届けてくれた高品質マスクは、それを本当に必要としている人たちの手に渡っている。
フェースガードにマスクの舞妓 ~コロナ感染者再急増 観光奈良は~
日本での新型コロナ禍は緩やかながら、このまま収束に向かうだろうから、次の取材先はライフワークの東南アジアに戻そうと思っていた矢先のことでした。国内の感染者が7月16日、3か月ぶりに600人を超えたのです。政府は感染者の再急増をうけ、7月の4連休から実施する観光業者支援事業『GO TOトラベル』で東京発着を除外と決定。
タイやベトナムなどの入国条件が未だ厳しいこともあり、大打撃を受けている観光業者を取材すべく、急きょ日本を代表する観光地・奈良へ行ってきました。興福寺の中金堂が再建され、大修理が行われていた薬師寺東塔の覆いも取れたのですが、外国人観光客らでごった返した社寺仏閣や商店街は閑古鳥が鳴いています。
夜と早朝の古都の魅力を満喫し、より多くのカネを落とす泊りがけの観光客を増やそうと、新しいホテルや夜の見どころを増やしてきた奈良。『GO TOトラベル』などを機に、観光客が戻り始めることを多くの人が期待していました。しかし、ここにきて客と自分の健康管理よりも、感染防止や景気浮揚の対策を発動する政府に翻弄される観光に携わる人たち。
今回のビデオリポートでは、緊急事態宣言下の自粛から営業を再開したばかりのお茶屋とホテル、それに、かき氷店を訪ね、それぞれの本音に耳を傾けています。本業だけでなく、数々の町おこしイベントを企画・運営し、奈良経済の振興に尽力してきた人たちだけに、コロナ禍の真っ只中でも前向きな展望を語ります。フェースガードにマスク姿で舞を披露する舞妓さんですが、白塗りの下は現代の娘さん。「オンラインお座敷」といった提言もありました。
逞しく生きる ――― 感染者数4位の福岡で
政府が緊急事態宣言を5月25日に解除すると、確認感染者数は再び増加に転じ、福岡県が第2波のピークを迎えたのは7月31日のことだった。福岡県は独自の『福岡コロナ警報』を8月5日に発動し、8月8日から21日の間「接待を伴う飲食店等」に(1)滞在は2時間以内と客に促すこと、(2)ガイドラインを遵守していない店に休業協力、を要請した。しかし「規制的な措置を長期間継続することは難しい」とし、同警報は延長しなかった。福岡県の人口あたりの感染者数は8月以降、東京、沖縄、大阪についで4番目に多いが、減少傾向にはある。9月初頭そんな福岡を訪ね、第3、第4の波も来ると予想されるなか、新しい生活様式を模索しながら逞しく生きる人たちに会ってきた。
“夜の街”一筋28年
まずは「接待を伴う飲食店等」で働く人たち。西日本最大の歓楽街・中洲の名物、那賀川に映るネオン。それだけを遠目に見ても、コロナ以前との違いほとんど判らない(写真)。9月4日午後9時、中洲大通り。金曜日にも関わらず、ホステスやボーイ、バーテンらが自分の店の前に、手持ち無沙汰に立ち尽くしている。挨拶しようにも人が通らない。彼女たちの視線を受けながら自営業風の中年男性が和服姿のママと同伴出勤して行く。店がつぶれないよう常連客が応援しているのだろう。
ここ中洲から車で1時間ほどの郡部の高校を卒業した古賀ゆかり(仮名)さんは、28年間ホステス一筋。ミニスカートから伸びる美脚が眩しいが、ゆかりさんも今年で47歳。勤めていた熟女キャバが他店に吸収される形で閉店し、彼女がいた店は明るい照明の下、白いソファが並び、VIPルームもある40人は入れるキャバクラだった。この夜ホステス6人と店長以下3人のボーイがいたが、先客はおらず貸し切り状態。ゆかりさんは『福岡コロナ警報』が解除された後、週3日ほどのペースで出勤しているという。鼻と口だけを覆う透明マスクを着け、対面ではなく横に座る。
「一組しか客がおらんで、基本時給しかもらえん夜もあって、このごろテレアポに行きよるとよ」。貯金と一律10万円の給付金も底を突き、ゆかりさんはダブルワークを始めていた。コロナ前は夜一本で月50万円以上稼ぎ、美容院やエステへ頻繁に通い、若いホステスに気前よくご馳走し、毎晩タクシー帰宅していた。「こないだえらい酢の物が食べとなって作ろうと思たばってん、キュウリが95円もするとよ。1本じゃ足りんめが…」。外食での感染が怖かったのと、出費を抑えるために、自炊を始めたという。「これコロナ太りと違うとよ。私ね、食材とか料理とか捨てきれんと、全部食べてしまうけん、5キロも太ったと」
しばらく顔を見ない客にSNSでメッセージを送ると、このごろは魚釣りやゴルフなどで遊んでいると。大手企業に勤める客は会社から禁足令が出ていて、社用族はまだ戻って来ていない。領収書を切れないからということもあるが、万一感染した場合、飲みに行ったことが会社にバレるのを恐れているからだという。ぽつりぽつりと来てくれる客は、自営業か勤務先から止められていない人。「ばってん、もしお店で感染したらどげんすんね、怖かろうが。うちから『来て』とはよう言わんよ」
コロナを機に夜から足を洗う考えも一瞬よぎったと言うが、「もうちょっと待ちよったら、昔のごつお客さん来るっちゃなかろうか?私、そげな気がするとよ」と眼を輝かせながら宣う。さすが熟達のホステス、場を明るくし、客を元気づけようとする。
“濃厚接触”の仕事に復帰
一方、6か月ぶりに派遣型風俗・デリバリーヘルスに戻ったという女性に出会った。“支店都市”福岡は単身赴任者が多く、デリヘル発祥の地とも言われている。老舗の一軒に電話すると、繋がるまでに時間がかかり、背後で別の注文を受けている声も。まぎれもなく濃厚接触となる業種だが、忙しそうだ。飲み屋のように自分から店に行かずに、こっそり遊べることから、自粛警察の非難や同調圧力が強まるなか、利用者が逆に増えている可能性は否定できない。万一クラスターが発生しても漏れなく「感染経路不明」となろう。
送迎車が足りないからと、玄関の呼び鈴が鳴ったのは約1時間後。「こんにちは。初めまして、今泉千佳と申します。きょうはご指名ありがとうございます」。丁寧な挨拶をして部屋に入ってきた千佳さんは、花柄のワンピースに白いボレロを羽織っていて、さながら同窓会に向かう主婦のような出で立ちだった(写真)。取材の趣旨を説明すると、源氏名で顔出しナシという条件で、本当のことを話し始めた。
千佳さん、長崎県は壱岐島出身の39歳。内縁の夫と福岡市南区で暮らしていて、まだ子どもはいないが、彼の収入だけでは苦しいとのこと。他の仕事に就けない期間は、この仕事をするというパターンが6年続いているという。
つい数日前まで大型家電店のコールセンターで働いていたが、エアコン販売の繁忙期だけの派遣だったため8月末日で契約が切れた。「派遣会社にも次の仕事を頼んでいるんですけど、見つからないんで…。きょう本当に半年ぶりでドキドキ、緊張してます」
九州・沖縄でコールセンターの平均時給は、アルバイトで933円、派遣社員で1100円(20年8月の求人情報から算出)。一方、風俗店での報酬は1時間で9000円、2時間で18000円。1日に2回、3回と指名されれば、単純に上記金額の2倍、3倍となる。好きな曜日・時間帯に働け、待機中の時給は出ないが自宅での待機も可能で、送迎があるので交通費はかからない。
半年前の3月初頭、千佳さんが在籍する風俗店は営業を続けていたが、客が激減した。待機しているだけでは報酬ゼロ。加えて、避けられない濃厚接触が怖くなった彼女は、コールセンターでの仕事をやっとのことで見つけ、コロナ渦中の風俗店を脱出したという。ちなみに、コールセンターでは指先から採血する抗体検査が1度あり、陰性だったとのこと。「正直、ホッとしました」。自分のフロアではクラスター感染は起こらなかったそうだ。
ホステスのゆかりさんはキャリアが長く、ママの経験もあるが、雇用形態はずっとアルバイト。仕事がない期間は風俗店で働く千佳さんもフリーランスの自覚はなかった。社員でなければ休業手当を出さない店舗や企業は、コロナまん延以前から少なくなかった。個人事業主として確定申告していたなら、衣装代や美容代、交通費などは経費に上げられ、今回の持続化給付金を受けられていたことだろう。
千佳さんが風俗店に復帰した9月初頭、福岡県の確認感染者数は1日あたり約40人、陽性率は2.6%前後を推移していた。「お客さんが感染してるかどうか、そんなこと判らないし…。そりゃ、怖くないと言えばウソですけど、私は持病もないし、元気なんで」。マスクを着けて現れた彼女だったが、到着直後の手洗いうがいはせず、話す時はマスクを外していた。ゆかりさんも千佳さんも長引くコロナ禍を生きていくため、自分なりのリスク計算のもと開き直っているように見えた。
48歳のウバ活 ―― シングルファーザーの奮闘と提言
二人の息子は独立、一番下の娘さんも高3になったシングルファーザー、宮原礼智(あやとも)さん、48歳。育児と家事と仕事を16年間両立させながら『ひとり親支援ネットワークNPOふしぼしねっと』の代表理事を務めてきた。「笑っている家族を増やし、シングルファーザーやシングルマザーがこれ以上増えない世の中にする」というミッションを自らに課し、パパの子育てスタイルの普及・啓蒙に走り回っている。
だが、もう少しで父親業も卒業というところで、コロナ禍が襲来。近年は電子部品工場に勤めていたが、自宅待機となり給料カットにも遭っている。それでも、宮原さんは新型コロナウィルス発生の遥か前、離婚を機にフルタイムの会社員を辞めて、育児家事と両立できるネット通販を起業するなどして生き抜いてきた。
久しぶりに会った彼は50歳を前にして、いまが“旬”だと『ウバ活』を始めていた。紛れもなく努力家の彼だが、一方でしなやかに飄々と。コロナで収入が激減したり、なくなったりする職業と、すぐには影響がない職業がある。それゆえ稼ぎ手が一人のひとり親家庭は、より大きなリスクに晒されている。3人の子を育て上げたシングルファーザー、宮原さんにコロナ禍の切り抜け方を聞いてみた。
コロナ渦中のフリースクールで
福岡市で9月2日、フリースクールを訪ねた。この日は小1から中2までの男子12人、女子5人が、6人の元教師や学生らと一緒にそれぞれの進度で学習していた。取材者の小生を含めて全員がマスクを着用し、感染が怖くてという理由をふくめ、教室に来られない子どもとはネット会議システムを利用して、声をかけ、授業を行っていた。
授業がわからない、いじめられる、先生が苦手、学校が嫌い…。様々な理由から学校に行かなくなったり、引きこもったりする子どもたちが年々増えている。不登校児童生徒の文科省の定義は「年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」。2018年度にはその数、小中高合わせて22万7251人に上り、中学生では30人に一人が不登校という計算になっていた(文科省調べ)。
そこへ今年、新型コロナウィルス対策本部は3月2日からの全国の小中高などに一斉休校を要請。感染者ゼロだった岩手県をふくめ、殆どの学校がGW明けまで休校した。子どもの感染例は少なく、学校でのクラスターは海外でも皆無に近い。給食や学童保育もなくなり仕事と育児の両立で困った親たちはいたが、感染拡大防止対策として効果のある施策だったのか。三密をさけるとして分散登校や行事の中止は続いており、教育の機会を奪うことや家庭での虐待増が危惧されている。
新型コロナウィルスの出現で、これまで毎日登校していた子どもたちが「不登校」を経験することになった。一方、フリースクールではコロナ以前からオンライン授業を活用し、自宅ではない場所での家族以外との繋がり、社会との接点を維持していた。コロナ渦中、不登校の子どもや親たちの声にも耳を傾けた。
「不安があって当たり前 ~コロナ不安に森田療法~」 ――― 黒川内科院長 黒川心理研究所所長 黒川順夫さん
「怖いですよ、そりゃ。まず自分が罹ったら死んでしまうので、歳を取りましたからね」。コロナ渦中の休診日に訪ねた医師、黒川順夫さん(78)は率直に話し始めた。加えて、院長の自分を含めて医療スタッフや事務員に一人でも感染者が出れば、患者が激減して経営が立ち行かなくなるという不安もあるという。実際、来院した人は受付前に検温し、37.5度以上ある人には、先ずPCR検査に行ってもらっている。黒川内科は開業当時から心身症を診る心療内科に力を入れていて、臨床心理士も5人以上が常勤。「いつになったら収束するのか分からない状況で、ほとんどの人が健康と経済の両面で不安になるのは当たり前です」。副作用がないワクチンか、インフルエンザのタミフルのような薬が行き渡るまで、この不安は長引くと黒川さんはみている。
「感染が怖くて一歩も外出できないんです」。「三密の電車に乗るのが怖くて、診てもらいに行けません」。こんな訴えが自分の受け持つ心身症患者のなかからもあると明かす。症状が悪化し、精神療法を再開していく過程では薬が必要になることも。緊急事態宣言の発出期間は定期通院している患者には処方箋を郵送やファックスできたが、解除後は来院せず電話だけで処方するわけにはいかない。そうした患者は学校や仕事以前に日常生活にも事欠くことになり、独居ともなれば命にかかわってくる。一方で、登校拒否したり、会社へ行けなくなっていた患者たちは、リモートで授業をうけたり、勤務することが認められるようになって「楽になった」という人もいるそうだ。恐れおののく人と、むしろ精神的に楽になっている人と両極端に分かれている。
そういう黒川さん、実は高校生の時に神経症の一つ「赤面恐怖症」を発症し、不登校になったことがある。その病を『森田療法』で克服して医学部へ進学、後に神経症を完治させた当事者でもあることから、森田療法を治療現場で実践し、現代のライフスタイルにも適合させるべく研究してきた。そして今、新型コロナの渦中で不安から心身に不調を来している人たちにも、ぜひ森田療法を知ってもらいたいと思っている。
東京慈恵会医科大学森田療法センターによると、森田療法とは同大教授を務めた精神科医、森田正馬(1874~1938年)によって創始された神経症に対する精神療法。強迫性障害をはじめ社交不安障害、パニック障害、…、近年では慢性化したうつ病やアトピー性皮膚炎、慢性疼痛などの心身症、がん患者のメンタルヘルスなどにも広く応用されている。不安や死への恐怖と生の欲望は表裏一体で、誰にも必ず訪れる死への恐怖を完全に除去することは不可能で、またその必要もない。そうした観点から、不安や症状を排除しようとせず、そのままにしておける心構えを養い、よりよく生きたいという欲望を建設的な行動として発揮させる療法だ。
奇しくも新型コロナ発生の2年前、黒川さんは『不安こそ宝物』という本を出していた。その中で森田療法を発展させた「ABCD森田」という自宅でもできる療法を紹介している。感染に対する不安から、また、周囲の耳目が気になって、何にも手がつかない、引きこもりがちになっているという人にも、この療法は有効だという。
まず、日常生活での作業を4つ、ABCDに分ける。Aは仕事や勉強など、するべき大切なこと。Bは音楽鑑賞や読書、ペットと遊ぶ、おやつにスイーツといった楽しいこと。Cは炊事、洗濯、掃除など日常すべきこと。Dは食事やトイレ、入浴など生きるうえで必要な行為。順序は自由に一項目30分くらいで行い、気が進まなければ5分、10分で止め、逆に興に乗っても1時間くらいで他の項目に移ることが秘訣。「こんな風に短時間であれこれ手をつけていくと、まず不安が悪循環する暇な時間が少なくなりますよね。とらわれが強い人は次の作業にすぐスイッチすることで、一つのことに執着せずに済み、しかも疲れないんです」
「一大事に緊張しないと命取りに」。「不安感が少ないときは赤信号」。これは黒川さん自身の体験からの持論だ。「日本は欧米より神経質な人の割合が高いことが、感染を抑えていると思っています」。アメリカやブラジルでのように、新型ウィルスを怖がらずにマスクもせず堂々としているより、不安でびくびくしている方が良いと説く。若い人は免疫機能がしっかりしていて感染しても無症状だったり、軽症だったりすることから、知らないうちに高齢者や持病のある人にうつす可能性がある。よって、公衆衛生や集団防疫の観点から「若い人たちも神経質に怖がった方がよいですよ」と促す。
そうすると、当然のごとく不安になるのだが、森田療法を長年研究してきた黒川さんはこう勧めた。「新型コロナに不安を感じていても、その不安を無理に取り除こうとせずに、不安を持ちながら、感染防止対策をとったうえで、必要なことを実行していくことが、この時代を生き抜くカギです」
コロナ渦中 子どもソーシャルワーカー 現場からの声
『新型コロナ禍』14本目のリポートをお届けします。題して『子どもソーシャルワーカー 現場からの声』。ネグレクトなど痛ましい児童虐待が社会問題になるなか、見守り・相談といった支援がより大切と分かっていても、コロナ禍がそうした活動にも影響しています。ウィズコロナの時代にも、問題を抱える子どもたちに出来ることは?ボランティア活動も含めると、15年以上子どもたちの問題に関わってきた女性のソーシャルワーカーに近況を聞きました。
私事になりますが、小生は放送局での定年退職を機に3年前に福岡を離れましたが、彼女も3年前に活動の場を福岡から名古屋へ移しています。小生と違って、彼女は2か月ごとに福岡へ通って気になる子どもたちと会っていたのですが、コロナのせいで半年以上会えていません。一方、小生は今年9月上旬に久々に福岡取材を敢行しましたが、もっと頻繁に継続取材すべき人たちが小生にもいます。ということで、彼女にシンパシーを感じての名古屋出張でした。
コロナ禍の年末年始、観光地は ――― 和歌山県那智勝浦町で
「コロナ禍の年末年始、旅行に行かない人が85%」。JTBが11月半ばに行ったアンケート調査の結果だった。そこへ政府が12月14日に『Go To トラベル』を28日から1月11日まで全国一斉に停止と決め、旅行代理店からはホテルなどの予約確認書と一緒に送ってきていた『地域共通クーポン』を出発前に返却するよう電話連絡が入った。それでも起死回生をこの年末年始に賭けていた観光地が気になり、予定通り出かけることにした。
回送列車のような特急くろしお
吉村洋文大阪府知事がツイッターで「静かな年末年始、感染拡大防止にご協力下さい」と呼びかけた12月31日、新大阪を発った特急くろしおの乗車率は3、4割というところだった。大阪府のこの日の陽性者は313人、陽性率は7.9%、重症病床使用率69.9%。乗客が漏れなくマスクを着けている光景がもう異様には見えなくなっている。乗り合わせた乗客たちに家族連れやグループは見当たらず、服装や持ち物から年末ギリギリまで仕事をしていた帰省客たちのようだ。一大観光地をひかえる紀伊勝浦駅に着いた時、列車は回送かと思うほどがらがらになっていた。
駅からは地元の串本タクシーで観光スポットへ。景気に左右されにくいコミュニティバスなどの運行を行政から委託されているので、辛うじて廃業には至っていないというのは運転手の重綱秀男さん(56)。それでも「雇用調整助成金が2月末まで延長されたけれど、その先はどうなることやら」と不安を隠さない。Go To効果で11月には隣町の新宮に大型客船が3週連続寄港し『熊野本宮大社』などへの長距離の仕事も一時は復活した。しかし、その後は車を運転できない地元のお年寄りが買い物や病院通いに利用するくらいで、第3波到来で観光客は再びさっぱりとのこと。
観光客が激減するなか田辺市熊野ツーリズムビューローが10月『世界遺産・熊野古道』の巡礼風景を保全していくためクラウドファンディングを実施したところ、予定より1か月早く目標金額に達し、案じている人は多いことが明らかになった。それでも『熊野三社(本宮・速玉・那智)』詣を翌日に控えた熊野古道は、参詣客の姿はなく聖地への道は前夜の残雪と静寂に包まれていた。
ボンドも泊まった老舗ホテルは
生マグロ水揚げ日本一の勝浦漁港(和歌山県那智勝浦町)の入り口に浮かぶ中の島。周囲約1.7キロの小島には車は一台もなく、あるのは1軒のホテルだけ。『ホテル中の島』は新鮮な海の幸とかけ流しの温泉、それに『那智の滝』などへの利便性を売りに、半世紀にわたって観光客を受け入れてきた。だが、団体客の減少から4棟(計139室)のうち3棟を解体する一方で、露天風呂付き全10部屋という贅沢な1棟を新築。一昨年4月には屋号改め、個人客をターゲットにした高級和風リゾート『碧き島の宿 熊野別邸 中の島』に生まれ変わった。
旅行スタイルの変遷に合わせて大改装したホテルだが、1年経たずしてコロナ禍に遭遇したことになる。感染防止対策が強化されるなか、JTBの調べによると「温泉地や自然・景勝地の高級小規模旅館、リゾートホテルは比較的好調」とされている。高級リゾートホテルに該当するこのホテルでは、客が状況に即応して躊躇なくキャンセルできるよう気遣い、自社公式サイトに連絡せず現れなかった(ノーショー)を除いて、直前の取り止めにもキャンセル料を取らないと表記している。案内された部屋でトイレの温水便座が通電していなかった。リセットボタンを押してもうんともすんとも。フロントが遣した設備スタッフは「ブレーカーを入れたので、温まるまで少々お待ちください」と。この部屋、何日も使われていなかったようだ。聞けば、ほぼ満室だった年末年始の予約もGo To停止で半数がキャンセルとなっていた。
「これは献立にないのですが、料理長から…」。夕食時、辛口の地酒『南方(みなかた)』を楽しんでいると、年配のウエイターがそう言いながらアワビの肝醤油煮を出してくれた。彼は事前に宿帳を見ていたようで、阪神淡路大震災までは記者と同じ町内に住み、神戸市の高級ホテルに勤務していたと話し始めた。全面リニューアル後のこのホテルに来て1年。その前は新潟県で経営不振に陥っていたホテルの立て直しに当たっていたという。受け取った名刺で初めて、このウエイターが総支配人の五十嵐巧さん(59)だと判った。
ウィズコロナな宿泊プラン
食後、喫煙室に案内してくれた五十嵐さんは歩きながら面白い企画を口に出した。「コロナで月曜と火曜を定休にしたのですが、その月火にお二人様、1泊2日この島ごと全館貸し切りというプランを考えているんです」。最も多い大阪からの客は、在来線の特急でも自家用車でも4時間かけて来ることになるが、その企画では大阪からヘリコプターで30分一飛び。島内のヘリポート建設も具体化していて、今年前半には大阪のデパートで販売を始めると。団体から個人の次は、富裕層のカップルへの貸し切り。気になる料金は「100万円」だそうだ。
ここ和歌山県の累計感染者は全国の約0.3%、692人(1月1日現在)。人口が全国の0.76%にあたる96万3千余人。観光資源が豊富にあっても、新型コロナの被害は比較的小さい。加えて、二人でヘリコプターで離れ小島を往復し、ホテル全館貸し切りともなれば、マスクなしで知らない人と対面したり、三密になったりすることはなく、感染の可能性はゼロに近づく。
2021年の初風呂は、岩礁が箱庭のように点在する『紀の松島』に面した露天風呂でと相成った。記者以外に入浴客は誰もおらず、100万円を払わずして贅沢この上ない貸し切り。全国各地の旅館やホテルで立て直しを図ってきた五十嵐さんは、終息が見えないコロナ禍を持ち前の創意工夫で切り抜けようと奮闘している。チェックアウトする客に年賀の熨斗を付けた手土産と2022年1月末まで有効という5千円引きのクーポンを手渡し、従業員たちは送迎船が見えなくなるまで手を振っていた。
感染公表に踏み切った老舗喫茶店 ~新型コロナ禍での闘い方~
政府が出すGO TOキャンペーンや営業自粛要請に振り回されている飲食店。「中途半端が一番困ります。2度目の緊急事態宣言に時短営業していますが、これも中途半端で、いっそのこと営業禁止の方が…。これで収束に向かって、3度目、4度目の宣言はないのか、それが不安ですよ」。こう話すのは神戸の老舗喫茶店、にしむら珈琲店の吉谷啓介社長(52)。
飲食店で従業員に感染者が出ると、ネット上や貼り紙、電話などで嫌がらせを受けて、客足も遠のき、一時閉店ではなく廃業に追い込まれるケースが度々報じられている。それでも吉谷社長は先代からの経営方針を貫き、あえて自社スタッフの感染とその対処の一部始終をホームページで公表した。
発生から丸一年、感染の実践的な防ぎ方は知れ渡ったが、第3波のなか誰が感染しても不思議ではない蔓延状態となっている。周囲に迷惑をかけるからと体調不良や感染を隠せば、感染拡大対策は功を奏さない。嫌がらせに見られるような差別が、対策の障壁となっていないだろうか。入院拒否に罰則など課せば、感染者差別を煽ることにはならないか。
にしむら珈琲店は昨年末、スタッフの感染が判明したその日から迅速で的確な対策を講じ、今年1月5日に晴れて営業を再開した。保健所は対策を指導しても、公表は決して勧めない。感染者が出た芦屋店の店長と指揮を執った社長に、公表に踏み切った考えを聞いた。
コロナ禍の技能実習生と「健全化」を目指す青年起業家
コロナ禍の不安やイライラから雇用主が外国人実習生に暴力をふるったり、業績不振から退職を迫ったり、解雇したりというケースが増えている。また、国際線の減便と航空券高騰などで期間を満了しても帰国できない実習生は約3万7千人にのぼる。
政府は昨年、帰国できない実習生は6か月間一定の業種で、解雇された実習生は介護や農業など14の「特定産業」で最長1年就労できることとした。だが、仕事に必要な日本語を覚えるのが精いっぱいの彼らにとって、在留資格の変更を知り、手続きすることは困難を極める。受入(監理)団体に頼らざるを得ないが、経営が悪化している受入団体では義務付けされている実習生の支援が疎かになっていることも。職場と寮から追い出された実習生のなかには、露頭に迷う人も少なくない。コロナ禍に見舞われる直前、日本には41万人あまりの技能実習生がいた。その53%にあたる21万8千人が、このビデオでも焦点を当てているベトナム人。
いわゆる「3K」職場では労働者の高齢化が進んでいて、慢性的に人手不足であっても、日本人の若者はなかなか求職せず、すぐに辞めてしまう。外国人なしには立ち行かないと、政府はコロナ発生前の19年4月には外国人が働ける枠を広げるため「特定技能1、2号」という在留資格を新設した。そしてコロナ渦中、1回目の緊急事態宣言が開けた昨年6月には「ビジネス上必要な人材等の出入国について例外的な枠を設置」し、ベトナムを真っ先にこの対象国に指定した。ベトナム人実習生はベトナム側の送出機関と日本側の受入団体を通じて来日するので「防疫措置を確約できる受入企業・団体がいること」とする条件をクリアできるからだ。
今回、こうした困難な時代に遭遇したベトナム人実習生と受入団体、実習先の企業の話を聞いた。年々顕著になる少子高齢化、アフターコロナも外国人労働者の需要は高まることはあっても、低くなることはないだろう。それだけにコロナ禍という窮地に実習生を切り捨てるのではなく、逆に支援すべきと奮闘する受入団体の青年理事長、東和毅さんに密着させてもらった。
差別された新型コロナ感染者
大阪など4府県に21年4月末、3回目の緊急事態宣言が出された日本では、感染者累計が56万人を超え(CDCまとめ)、約210人に1人が新型コロナウィルスの感染経験者という計算となりました。
昨春からずっと気になっていることは、新型コロナ感染者に対する差別です。差別があったり、差別されるという不安があったりすると「コロナかも」と思っても軽ければ敢えて普段通りに生活したり、「濃厚接触したかも」と思っても検査を受けなかったりし、感染拡大防止対策の空回りが危惧されるからです。
ついては感染者差別を減らすリポートを作ろうと、嫌な目にあった感染経験者をずっと探していたのですが、小生の周囲には誰一人とおらず、知人友人を介して連絡が取れた数人には匿名前提でも断られました。こうした反応も、差別を恐れるあまり、周囲にさえ感染を明かしていない人が多いからかも知れません。
感染拡大防止が重要と解っていても、感染したことで受ける不利益は最小限であって欲しいものです。自分だけでなく周囲も巻き込んで、観察や治療のために隔離され、仕事や趣味を中断せざるを得ず、生活破綻のキッカケになりかねません。周囲の人たちがそんな不安から感染者と一定期間物理的な距離を取るのではなく、彼らを忌み嫌って疎遠にすることも考えられます。それこそが差別していることになり、感染者は差別されていると感じるのです。
もっと早く報じたかったのですが、ようやく3人の感染者が差別された体験を話してくれ、このリポートをお送りできることになりました。この方々は異口同音に、感染拡大を防ごうと周囲に知らせた結果、人間不信に陥るほどの対応がと。自分だけは罹らないなどと思わず、自分と置きかえてご視聴いただければ幸いです。
コロナ禍 聞こえない実習生の悲鳴
3度目の緊急事態宣言が延長されようとするなか、新型コロナ関連の経営破たんは4か月連続で100件を超し、累計1500件以上となった(東京商工リサーチ)。厚労省によると、去年1年間に雇い止めや解雇に遭った人も8万人を超えた。
日本の人手不足を補っていた外国人技能実習生は、コロナで少し減ったとはいえ、38万人ほどが全国各地に。実習先が用意した辞表にサインを求められたり、「失踪」を仕向けるように、給与や残業代が払われなかったり、暴言暴力をふるわれたというSNSの書き込みを何度も目にした。
実習生が解雇された場合、日本側の監理組合(団体)が一時保護し、次の実習先を斡旋することになっている。だが、組合そのものが機能しなくなっていたり、実習生が組合に連絡せず逃げ出して「失踪」とされるケースも後を絶たない。社会保険や厚生年金の掛け金を天引きしていて、加入させていないことが判明しても、組合は命令や強制はできない。給料不払いや暴力に遭った実習生が組合に相談しても、実習先の企業側に立つ組合も少なくない。
労働力を安易に調達すべく、名ばかりとなった外国人技能実習制度。実習生は母国側の送り出し、日本側の受け入れ機関というプラットフォームに乗って来日する。彼らのほとんどは、高い教育を受けられず、良い仕事に就けなかった若者たち。日本が人生初の外国であり、日本語も片言。そして、来日費用として数十万から百万円を超す借金を抱えている。
これまで看過されてきたこの制度の問題点を、コロナ禍があぶり出している。職場や寮の集団生活で新型コロナウィルスに感染するリスクは日々あり、数千人はいる「失踪」者はワクチン接種から漏れる。実習先にも、監理組合にも見放され、社会補償も公的支援も受けられない人が少なくない。それでも、借金が残っていたり、航空券と隔離費用が高騰していたりし、帰国もできない。こうした実習生と彼らを手弁当で支援する日本人青年を広島県に取材した。
コロナ収束まで極秘アルバイト ――― 2匹の猫と強かに生き抜く
東京都の4度目の緊急事態宣言発令と、大阪府など4府県のまん延防止等重点措置の延長が決まった7月8日、大阪市のデリバリーヘルス(無店舗型性風俗業者、以下デリヘル)のサイトを開いた。顔にボカシが入った25歳から64歳、120人の写真が並び、平均年齢を出すならば40歳くらいになりそうだ。着信払いの番号へ架電すると、数コール目で転送され、声の感じから30代の女性が出る。背後には何人かの子どもが遊んでいる声が響き、まるで保育所へ間違い電話をしてしまったかのよう。シングルマザーたちが仕事に行っている間、子どもを預かっていると思われる。好みを聞かれ、「30、40代の話し好きな人」と答えると、酒井加奈(仮名)さんという44歳の女性が派遣されることになった。
全国に推定40万人以上
1999年の風適法改訂以降、大都市を中心に急増したデリヘル。歓楽街の店舗へ出勤することなく、仕事を請ける日と時間帯を自分で決められることから、今や店の数から全国で40万人以上が働いていると推定される。街ですれ違ったり、身近にいたりするかも知れないが、こうして客を装う以外に取材を取り付ける接点すら持てない。なぜなら、彼女たちはこの仕事をしていることを極秘にしているからだ。一方、正面から店長や経営者に取材を申し込んでも、商売の邪魔になると拒否されるか、いわゆる額縁の内側だけを見せられ、本音は聴けない。
ホテルの前に予約時刻の10分前に現れた加奈さん、店のサイトの写真では高級クラブのホステスのような服装だったが、この日は化粧っけがなく、下町のスーパーで見かける主婦といった出で立ち。「キレイ系のワンピなんか着てたら、何の仕事してるのって言われちゃうでしょ」。そんな申し訳を聞きながらコンビニで飲み物を買って、フロントで体温チェックを受け、2名で予約していた部屋へ。初めての利用で指名なしという条件の割引料金、「110分で1万9千円」を部屋に入るなり手渡した。どの店でもサービスを始める前に支払うのが規定となっている。「コロナでいろいろ大変でしょう」と挨拶代わりに言い、ジャーナリストであることを明かして、こう切り出してみた。
「きょうはサービスなしで、話を聴かせてほしいんだけど…。もちろん顔出し、名前出しナシで良いから」。すると、加奈さんは意外にも警戒したり、面倒臭がらずに快諾してくれた。「話し相手になったり、一緒にお酒を飲んだり、そういうお客さんって多いのよ。特にコロナになって半々くらいかな」。ほとんどのスナックやラウンジが酒類提供自粛に協力して閉めているなか、カラオケ設備があるラブホテルへ酒を持ち込んで、デリヘル嬢を呼んで遊ぶ客が少なくない。なかには、コロナ禍で孤立している高齢者もいて、ヘルパーや介護職のような仕事もある。それでも感染を恐れたり、コロナ禍で減収になったり、家人が在宅する時間が長くなったりして、デリヘルも客は減っていて、1日1回仕事が入れば良い方だという。
「44に見える?51歳よ」。加奈さんは大阪の二大繁華街の一つ、ミナミのホステスで、この仕事はアルバイトだと打ち明けた。ミナミの店はラウンジで、客単価はボトルキープがあれば1万5千円くらい。サイトの甘美な写真は、まんざら過剰演出ではないことが判った。「筋力を付けているの」と言って、さっきコンビニで買ったプロテイン飲料をちびちび飲みながら話を続ける。
身の上話は波乱づくめ
バブル真っ只中の80年代後半、加奈さんは高卒で地方から大阪に出てきて、デパートの店員として働いていた。友達に誘われてラウンジのホステスを兼業しているうちに、23歳上の羽振りの良かった常連客と意気投合。東南アジアへ移住し、飲食店を経営した。「店の裏にはスラムが広がっていて、危ないって言われたけど、私、言葉ができたし、怖いとは思わなかったわ」。元常連客は片言の英語だけだったが、彼女は現地の言葉を覚え、ビジネスでも片腕的存在となり、一軒家にメイドを雇って暮らしていたという。だが、10年目に現地で暴動が起こった。店の階下のスーパーマーケットが独裁者一族の経営だったことから放火され、店を焼失。現地華僑の共同経営者と金銭で揉めて事業を再建できず、30歳の時に帰国したという。
その常連客は知り合った当時、妻帯者だったが、すぐに離婚。彼は日本で不動産を売った際に脱税していて、その追徴課税が彼女に及ばないよう入籍しなかったそうだ。バブル経済での不動産急騰と、経済格差が大きかった東南アジアへの進出ラッシュという時代に上手く乗ったとも言える。だが、常連客の事業資金は親や前妻からの棚ボタで、且つ、膨らんだバブル。日本へ引き揚げる際の整理も、彼は動かず一人で担った加奈さん。「何事にもツメが甘く、仕事ができない人だったので」と、帰国と同時に事実婚を解消し、以来一度も会っていないという。
長年の海外生活で「日本語が怪しくなってたけど、帰国後は猛勉強して医療事務の資格を」取り、大阪の病院に勤めた。しかし、月給は14万円ほどで生活は苦しかったという。彼女が東南アジアのスラムで絶対的貧困を見ている間に、日本ではバブルが崩壊し、格差とともに相対的貧困が拡大。90年代の東南アジアへ日本円を持ち込めば、現地の人が羨むような贅沢な暮らしができた。だが、戻った祖国日本では年収や資産が桁違いという“勝ち組”が同級生や隣近所にもいた。そんな社会で「人並みの生活」をするため、彼女は大阪ミナミで再びホステスとして働くことを選ぶ。だが、昼夜のダブルワークから十二指腸潰瘍を患い、福利厚生が付いていた病院はわずか5か月で退職し、手取りが多いホステスを生業とした。
そして、ラウンジの客と、今度は事実婚ではなく結婚。大手企業のサラリーマンで離婚歴があり、店の客との男女関係を疑うなど、嫉妬心と独占欲が異常に強かったという。免停になっていることが会社にバレないようにと、彼女に営業先への運転手をさせたり、メールを一日に何十通も送ってきて、四六時中束縛された。「何もいらないから、別れて」と後半は家庭内別居し、5年で離婚。別れた後もストーカーになられ、前夫の母親に「もう警察に言いますよ」と訴え、ようやく収まったそうだ。
長年勤めたラウンジが閉店
ところが、新型コロナの影響で去年6月、20年近く勤めたラウンジが閉店した。税理士の実兄のアドバイスで、ラウンジに雇用調整助成金や休業補償の申請を勧めたり、不払い賃金の97万円を求めた。しかし、ママは「申請なんか、怖くてできない」とか、店は自分名義でないからとか、風営許可をとっていなかったなどと言って、取り合ってくれなかった。深夜営業届で営業しているスナックやナイトクラブは、法的には「接待を伴う飲食店」には該当しない。また、長年勤めている専従のホステスでも、社員ではないと雇用保険に加入させない店が多く、彼女も年齢と勤続年数から算出すれば270日支給される失業等給付は、全く受け取れなかった。
加奈さんは子どもがおらず、猫2匹と暮らしている。コロナで収入が激減し、家賃が半額ほどの賃貸マンションへ引っ越したが、それでも「人並みの生活」には、猫の餌や砂代を含めて月25万円くらいが必要だという。パートで働いても月収は15万円ほどにしかならず、時間に縛られる上にくたくたに疲れて、それ以上稼ぐことは無理だ。
昨年度22万8千件の申請があったとされる生活保護は、「狭くて不便な所へ引っ越して、猫も手放さないといけないでしょ」と彼女の選択肢にはない。住居確保給付金を知り、ハローワークで残高が50万円を切った銀行通帳を見せ、リモートで求人面接を受け、3か月前から月4万円を得ている。「水商売だったので離職票はもらえなかったと言ったら、下りたんです。ハローワークの担当者しだいっていうところがありますね」。だが、その給付金で暮らせるわけもなく、このデリヘルの仕事を一日置きにしている。自宅で待機し、店からの連絡でホテルか客宅へ直行直帰、店が定めたサービス料の3割を店の口座へ、その都度入金するというシステムだ。
ラウンジやキャバクラは公安委員会への許可申請だが、デリヘルは警察に「届出」をする。許可されたわけではないグレーな存在。性風俗業の関係者は、接待を伴う飲食業と並んで、当初コロナの休業補償の対象外とされていた。しかし、ネット上で「職業差別だ」と批判が起こり、支援団体「SWASH」が見直しを求める要望書を加藤勝信厚労相に出したことから、昨年4月厚労相が「性風俗関係者を対象とすることにしたい」と支援対象とする方針を表明している。コロナ前の東京地裁判例にあるが、こうした業界では雇用ではなく業務委託となり、休業補償は「雇われて働く人に日額8.330円(上限)」ではなく、支給されたとしても「フリーランス一律日額4,100円」となる。
加奈さんがデリヘル店に確認すると、店長は「サイトで客と繋いでいるだけで、雇ってはいないので」と、ラウンジ同様に取りつく島もない対応だった。ラウンジでも、デリヘルでも雇用契約を結ぶ店はほぼ皆無、彼女も個人事業者としての任意契約。福利厚生はなく、労基法の保護も対象外となる。4割を超していた非正規雇用者はコロナ禍の影響をもろに受け、貧困と富裕の二極化が急速に進んでいる。
コロナが収束したら…
波乱万丈の身の上話に耳を傾けていると、加奈さんのスマホが鳴った。部屋に入る際に仕掛けておいたタイマーが、帰り支度に入る10分前を知らせたのだ。デリヘルは密室で濃厚接触になることが避けられない仕事だが、コロナ感染は怖くないかと聞く。「怖いと思ったことはないですね。私の周りには一人も罹った人がいないし、私、インフルエンザにも一度もかかったことなくて、たぶん抵抗力が強い方だと思うんで…」。
あと5分、最後の質問をした。「コロナが収束したら、一番やりたいことは何?」。「…何だろう…知り合いの店がヤミ営業してるので、飲みには行けてるし…」と、しばらく独り言をいいながら自問し、一気にこう話した。「私、このバイトをしていること、誰にも言ってないんです。やっぱりお金で売り買いするモノじゃないですよね。自分を何も感じないようにしてやっているけど、本当に何も感じなくなってしまいそうで…。だから、コロナが収束したら、やっぱりラウンジ一本でやって行きたいんです」。
大阪府はワクチンの集団接種を8月2日から休止と発表し、まん延防止等重点措置を8月22日まで延長している。年内にはコロナ以前のようにラウンジで働けるようになるだろうか。未知のウィルスまん延だけに、その闘いでは役所も市民も誰もが出たとこ勝負を強いられている。加奈さんもその一人に違いないが、時々の成り行きで波乱の半生を生き抜いてきた彼女には、コロナ禍からも必ず再起する強かさを感じた。
カルト化危ぶまれる反ワクチン派 ~瓜生住職の提言~
新型コロナの感染拡大防止対策を巡って、感染予防やPCR検査の方法、そしてワクチンの効果と安全性などついて様々な意見が飛び交っている。この新型ウィルスのまん延は命に係わる重要な問題なのだが、まだ判ってないことも多いため、飛び交う意見の中にはデマとしか思えないようなものも少なくない。
反ワクチンを唱えるある高齢者サークルの指導者は今年4月「メンバーの健康のため」と言いながら、反ワクチン派であることを誓わす“踏み絵”のように、『本当はこわくない新型コロナウィルス』という新刊書を買って、その著者の講演を聴くことを強く勧めた。当時すでに高齢者が一旦感染すれば重症化しやすいことは周知の事実だった。多くのメンバーは面従腹背。指導者に察知されないよう高齢者優先のワクチン接種を受けたが、サークルは疑心暗鬼に、和やかな雰囲気は過去のものとなってしまったという。
常にマスクやアクリル板を使い、三密を避けながら、ワクチン接種を急がねばならないことは自明だ。デルタ株への置き換わりが進むなか、爆発的な第5波をまねいているが、その危機感が人々の間で共有されないことが感染拡大に歯止めがかからない要因だと言われている。若者を中心にインターネットで流布されるデマに惑わされたり、フェイク情報を信奉し、デマやフェイクをさらに広めようとしたりする人たちは、ワクチン接種を含めて感染防止対策をとらないことが多い。
どうすれば新型コロナの収束に向けて、彼らにも足並みを揃えてもらえるのだろうか。高齢者サークルの一件は「波風を立てたくない」と取材拒否にあったが、このほど反ワクチンを標榜する人たちによるデモは公道で行われ、自由に取材できた。加えて、そうした先鋭化した同じ意見を持つ集団の出現を危惧する僧侶の話もじっくり聞けた。その僧侶は若き日に自ら新興宗教に入信し、布教活動に携わった体験から、カルトからの脱会支援活動もしている。
映像であっても「フェイク」と一蹴される今ゆえに、このビデオは実写と肉声に拘って制作した。ウェブサイトも所謂スクリーンショットではなく、モニターをカメラで撮った。また、このリポートはYouTubeにアップしてリンクを張っていたところ「著作権侵害」という理由で削除されたため、映像ファイルを独自サーバーに置いて再掲している。特定の人物を明らかにすることが当リポートの目的ではないので、モザイク処理と声の変調を施した。
2年ぶりの実習生 ~~新型コロナが浮き彫りにしたこと~
日本は3月から新型コロナウィルスの水際対策を緩和させた。観光目的を除く外国人の入国を段階的に拡大するなか、来日が決まってから約2年待っていた外国人技能実習生が各地の受入(監理)機関に入ってきている。
少子高齢化と人口減少が急激に進む日本。技能実習制度は事実上、労働力の補充という目的が主となっている。今回のコロナ禍で実習生は昨年約5万人減ったが、それは水際対策で入国できなかったからであり、後発国の若者たちが日本で働くことを諦めたからではない。
記者は不定期に取材活動をするため、日雇いのアルバイトをし、様々な職場を覗いている。宅配便の仕分けや弁当工場、一般家庭や事務所の引っ越し、自動車部品の開梱検品、飲料の景品付けと箱詰め、車検工場での洗車など。どこもアルバイトで来ている日本人は40代以上で、なかには60代も。若者といえばベトナムや中国、フィリピンなどからの外国人が目立つ。職場によっては、外国人が過半数と言っても過言ではない。各職場のマニュアルは厳守しなければならないが、殆どはラインに付いての単純作業。求められる日本語は日常会話レベルか、そもそも使う機会がなく、日本人の労働者にとっては立ち放っしだったり、力仕事だったりで、人気がないのが頷ける。そして、求人メールが連日送られてくることから、慢性的に人手不足の職場であることが判る。
今回、大分県豊後大野市の受入機関(監理団体)ワークビジョンに、来日を2年待っていた実習生23人が入ってくるところを取材した。入国後3日間の検疫隔離があり、新型コロナの感染が判明した6人は隔離され、後日合流となっていた。話を聞いたのは、受入機関の東和毅理事長(25)とベトナムからの20歳と21歳の実習生、そして実習生を受け入れている企業の役員、赤嶺隆一さん(79)。その企業は解体工事とリサイクルを主に営んでいて、やはり従業員の高齢化と若者からの求職がなく、人手不足に悩んでいた。コロナ禍で職を失った人たちがシフトして来て、人手不足は解消しているかも知れないといった淡い思いは、日雇いバイトの職場同様に、脆くも断ち切られた。
新型コロナウィルスの世界的まん延は、日本の労働市場を改変することなく、福祉行政や公的援助が乏しい後発国の貧富の差を拡大した。そして、今回のコロナ禍は日本での外国人労働者の需要は根深く、技能実習制度が不可欠になっていることを改めて浮き彫りにした。