阿佐部伸一 リポート集

東南アジアの人びと

タイネットで国際結婚2004年8月

国際結婚斡旋業者の「やり口」

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タイ人女性との結婚を斡旋する業者のホームぺージ。客は写真とプロフィールで希望の女性を絞り、タイへ見合いに行く

「緊急大募集!日本人男性と結婚を希望するタイ人女性」。地方紙『チェンマイニュース』に2004年8月載った広告である。年齢や職業などを書き込んで、写真を添えて郵送する形式。2週間も経たないうちに、日本の国際結婚斡旋業者のホームページに、「New」と冠が付いた女性のプロフィールが出た。
東京都では婚姻届を出す10組に1組が国際結婚。その約8割が日本人男性とアジアの女性のカップルだ(00年、厚労省)。赴任や留学、観光で知り合うだけでは、こんな数字にはならない。全国に250以上乱立する斡旋業者がホームページで宣伝し、お膳立てするお見合いが、国際結婚を加速させている。日本にいては見えない新婦側の実状をタイに取材した。

婚約以降に“元を取る”

冒頭の広告主は、チェンマイ市内でナイトクラブを経営するソムサックさん(38)だった。関西に住む日本人と組み、花嫁斡旋を2年前に始めたという。登録女性は19歳から42歳までの約40人。「すぐ決まる人もいれば、1年くらいかかることもあります」。結婚の具体的なスケジュールはない。見合い料金は航空運賃を除いて28万円余り。これなら見合いだけで利益が出る。だから、ゆったり構えているのだろう。

しかし、大半の業者は航空運賃込みで15万円前後と、実費を割るような料金で見合いをさせる。それは、あくまで集客のためなので、婚約以降で取り返すべく、初めての見合いで婚約することを強く勧める。結局、花嫁来日までに200万円以上を注ぎ込むことになるが、確実に結婚したいと焦っている男性は多い。

行き違う希望条件

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日本人と組んで結婚斡旋業を始めたソムサックさん=チェンマイ市内で自営するナイトクラブ前で

日本人と結婚を望み、業者に登録しているタイ人女性3人に会った。チョンティットさん(23)=PC部品工場は「結婚してもタイに住んでほしい。日本に行くのは、本当に愛されていると分かってから」と。彼女の希望に添える男性は、日本での仕事を辞められる人か、年金生活しているお年寄りしかいない。

ギンさん(28)は小さな美容院を営む。日本人と初めて接したのは約10年前。日本の若者たちが彼女の村にホームステイした時、一人の大学生と親しくなり、1年文通が続いた。が、「弁護士になりました。お金を貯めて、また行きます」という手紙が最後だった。暮らしが安定するなら、収入にこだわらないという。「40代前半までOKかな。あの頃の夢を追っていても、もう歳だし」と笑う。

だが、彼女は日本人男性が期待するプロセスを全く知らなかった。「私はお見合いの席で、すぐにイエスとは言えませんよ。知り合うキッカケ作りに登録したんですが…」と、戸惑いを隠さない。

ビザ取得の隘路が背景に

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2歳の息子がいるオーさんは、「日本人は責任感があるでしょ」と期待している=チェンマイ市内で

マイクロミニが似合うオーさん(23)は、家業の靴屋を手伝う。業者のHPでは「未婚」となっていたが、2歳の息子がいた。「タイの男は浮気性。ギャンブルや酒が好きで、もうこりごり。日本の男は真面目そうで、可愛いじゃない」と、登録の動機を話す。

とはいえ、恋愛結婚をしても、相手の本性が見えた時には遅すぎた例もある。Aさん(32)はタイで人気の日本のアニメを見て育ち、キャラクター商品を集めるのが趣味。東京で日本語を学んでいた時、5歳年下の日本人男性に「結婚してくれないなら、自殺する」と迫られ、25歳で根負け入籍。だが、彼女は今、3歳の息子と2人、タイ北部の旧友宅に身を潜める。「将来が見えず、このままでは彼は大人になれないと思って逃げてきました」と、流ちょうな日本語で話す。夫がひどいマザコンと分かったのは結婚後。電気を止められても働かず、生活費を母親に無心する一方で、彼女がパートに出るのは許さなかった。

恋愛のプロセスを経ないインターネット見合いでは、なおのこと、こうした性癖を見抜くのは不可能だ。
日本人バーで働くBさん(35)は「夫が再婚していても仕方ないけど、元気なのか、幸せなのか、それだけは知りたいんです」と涙する。彼女は父親が120万円の借金を残して早死にし、27歳でジャパゆきさんになった。元客の会社員と入籍し、結婚5年目にきちんと配偶者ビザを取ろうと入管に行くと、オーバーステイで強制送還された。

婚姻届が受理されても、日本で一緒に暮らせるとは限らない。就労目的の偽装結婚を排除するための隘路が、斡旋業者を繁盛させているとも言える。

「良い人ばかりなので、心配しないで登録してください」。信頼できる業者を探していたソンポーンさん(28)=OLは、日本人経営者がタイ人の妻と微笑んでいる写真をHPに掲げる業者に電話した。プロセスを尋ねると、お互い気に入れば見合い当日に婚約と。「婚約は数ヶ月交際してから決めたいのですが」と言うと、「そんな時間はありません」と答えた。ならば、婚約解消する場合はと尋ねると、「貴方が法的手続きを取れば良いことですが、(男性が払った)日本語学校やビザ取得の費用は返してもらうことになります」と罰金を仄めかした。彼女は、結納金の2割を業者が取るという条件にも引っかかり、登録を見送った。

焦る日本人男性、無知なタイ人女性

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結婚斡旋業者に電話するソンポーンさん=バンコク市内で

バンコクのバイクタクシー運転手、ソンバッドさん(33)は独身。「貧乏でも真面目な男もいるよ、僕みたいに(笑)。日本人と結婚したがる女は、自分だけ楽な道を行こうと思ってるんじゃないかな」。また、カニカーさん(30)=ブティック自営は「女性は仕事を持って、自立するのがベストだと思います。私も恋愛はしますが、男性に頼るのはトラブルの元ですよ」
今回、別の日本の業者がタイで配っているマニュアルを入手した。A4版にタイ語ワープロで、登録前に女性に説明するシステムや男性側の事情などが記されている。「こんな女性は避ける。①勝手気まま、②恋人がいる、③遊び好き、④水商売とその経験者、⑤親の面倒をみない、⑥外国へ出稼ぎ経験がある」と、なかなか手厳しい。そして、見合い当日に婚約する理由には、「日本人男性は仕事を休んで来タイするため長期滞在できず、渡航費もかかるので何度も来られないから」とあった。

一部の業者は慎重なようだが、チュラロンコン大学のスリチャイ・ワンゲオ教授(55)=社会学は、こうした国際見合い結婚は早晩社会問題になると危惧する。「ネット時代の弊害です。その女性を知っているような、相性が良いような気がするという早合点が危ない」と忠告する。日本人男性との結婚を希望するタイ人女性は、日本に憧れ、経済的理由や人間関係の問題で、今の暮らしから抜け出したい人たち。「結婚に焦る日本人男性と無知なタイ人女性。言葉が通じないことに付け込むなんてアンフェアですよ」。教授との話は、業界はガイドラインを設け、男女は互いをもっと知る努力をすべきという辺りに落ち着いた。

(文・写真/阿佐部伸一)

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